第347話 それぞれ
ノンが人知れず旅客船に潜入し、敵を無効化してから十数分ほど経ちました。闇ギルド組員たちは船内の異変に気付くことなく、いつも通りに薬で眠らせた獣人たちを小舟に運び、崖下の洞窟へと向かいます。
その洞窟は波によって削られてできた天然のものであり、ナーティの住民もその存在を知っていました。ですが、中は少し広い空間しかなく、何かに使えるものでもなかったため、ずっと放置されています。
「でも、数年かけて外に通じる穴を開けてそこから秘密裏にやり取りをしてたなんてね」
小舟から獣人を降ろし、取引相手である奴隷商を待とうと五人の男たちが椅子に腰を落とした瞬間、荷物の裏に隠れていたアレッサが飛び出して一瞬にして制圧。倒した男たちを縛り、一仕事終えたと言わんばかりに椅子に座りながら独り言を零しました。
そして、その男たちと共に倒れている奴隷商の姿もあります。ブレッドの情報に頼りにこの洞窟から繋がっている森の中で待ち伏せし、のこのことやってきた奴隷商を一発で気絶させ、洞窟に転がしていました。
「はぁ……」
チラリとアレッサは薬によって眠らされている獣人たちに視線を向けます。数は三人。大人の男が二人と女が一人。彼らもアゼラたちと同様に闇ギルドによって誘拐された被害者です。
「ほんとに……嫌になるわ」
とりあえず、これで獣人たちの安全は確保しました。特にノンたちに合図を送る予定はありません。油断している相手にアレッサが負けるわけがないとノンが自信ありげに言ったからです。弟子にそう言われたら師匠としてドジを踏むわけにはいかない。実際、アレッサは弟子の期待に応え、ものの数秒で事を終わらせました。
「……」
あとはノンとグレイクの仕事が終わるのを待つだけ。もしかしたら自分が一番楽な仕事だったのでは、と彼女は小さくため息を吐いて持ってきた本を手に取り、呑気に読書を始めました。
「おい、積み荷はこれだけか?」
「いや、もう二箱ある!」
「なら、早く持ってこい! ただでさえ、船の到着が遅れてるんだ!」
男たちの怒鳴り声が響く砂浜。ここはナーティからそれなりに離れた海岸であり、闇ギルド組員たちが旅客船に積む物資を運んでいました。ケレスカ大陸では物資の補給をしないため、約一か月分にも及ぶそれらはそれなりの量があり、運ぶのも一苦労でしょう。
「……」
そんな彼らを見つめる鋭い眼光。その持ち主は射程距離範囲内の中で最も背の高い木の上に立つ猫族の狩人――グレイクです。
ノンは船の中。アレッサは洞窟。そして、彼は補給作業をしている闇ギルド組員たちが集まる砂浜担当です。お互いに連絡を取り合わせない、もしくは違和感を覚えないようにするためにほぼ同時に襲撃を行い、制圧する。それこそノンたちが考えた最も効率的かつ確実な方法でした。
しかし、必然的に一対多数という構図となり、危険が伴います。それを承知の上で全員がその作戦に賛同し、アレッサは仕事を終え、ノンはその時が来るのを待っていました。
「……やるか」
誰かに聞かせるわけでもなく、そう呟いたグレイクはその手に弓と矢を生成。そして、驚異的な視力で捉えた、他の人から離れて作業する男にその照準を合わせます。
「ッ!」
射出。彼が放った矢は大気を切り裂きながら飛び、トスン、とその男のこめかみに突き刺さりました。きっと、自分が死んだことすら気づくことなく、彼はその場に倒れます。
それを見届け、次の矢を作った彼は次の標的へ矢を放ちました。同じように闇ギルド組員は矢に頭を貫かれ、即死。ですが、矢が届く直前に物資が入った箱を持ち上げてしまったため、大きな音が鳴ってしまいます。
「あ? なん――」
その音を聞いた近くの男が顔を上げた瞬間、グレイクの矢がその命を止めました。しかし、三人の仲間が死んだところで周囲にいた男たちが異変に気付き始めます。
「遅い」
もちろん、その間もグレイクの手は止まりません。矢を放つ速度を上げ、次から次へと男たちを射抜いていきます。その精度はまさに百発百中。
「どこからだ! どこから――ぎゃああ!」
「探せ! 早く!」
「な、なにが起き――」
グレイクの姿を探す者。周囲を落ち着かせようと声を張り上げる者。周囲の残酷な光景に思考を放棄する者。
様々な反応を見せる人がいましたがその全てをグレイクは木の上から矢で殺していきます。そして、誰もグレイクがいる場所すら見つけられず、その数はゼロになりました。
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