第345話 待機
ノンたちがナーティの秘密を知ってから一週間ほど経った頃、街では月一ペースで開かれている祭りの準備が進められていました。
「あの冒険者たち、お祭りまで街にいればよかったのに」
「ああ、俺も引き留めたんだが、次の依頼があるって言って足早に去って行っちまったしな」
屋台を組み立てながら男たちは五人中三人が外套で身を隠している少し怪しい冒険者たちの噂をしていました。三人の子供を連れていたため、何かしらの事情があるのは明白。そのため、あまり一つの街に長居できないのでは、という結論になり、あまり強く引き留めずに見送ったのです。
「まぁ、また何かあったらこの街に来るだろ」
「そうだな」
冒険者が来ることも久しぶりだったからか、ナーティの住民たちは良くも悪くも彼らに注目していました。しかし、あっさりと去っていったことで数年前まで頻繁に訪れていた冒険者たちも同じだったことを思い出したのか、話はそこで終わり、祭りの準備に戻ります。
「……」
そんな彼らを見ていたノンも足音がしないようにその場を離れ、ナーティの西側に広がる森へと戻りました。
「戻ったか。どうだった?」
「はい、僕たちのことを話してる人もいましたがあまり気にしてなさそうでした」
「そうか」
彼の報告にグレイクは短く答え、焚火に乾いた木の枝を放り込みます。街を出た彼らは密かに森へ移動し、その時が来るのを待っていたのです。
「領主はどうだった?」
「今日も簡単な打ち合わせをしてきました。闇ギルドの人たちは僕たちに気づいた様子はなく、いつも通りに獣人たちを売り渡す準備をしてるって言ってました」
更に魔力を放出しない体質のノンは何度も領主邸へ足を運び、ブレッドと何度も打ち合わせをして作戦の抜けがないことを確認したり、闇ギルドたちの動向を共有していました。
領主邸は闇ギルドの組員が数人ほど常駐しており、ブレッドや彼の使用人が妙な真似をしないか監視しています。ですが、数年もの間、ブレッドが大人しく従っていたおかげで最近はその監視も適当になっており、ノンの侵入に気づいていません。
また、あの夜以降、ノンが屋敷に入りやすいようにブレッドの寝室や書斎の窓を開けたままにしているため、昼間でも簡単に屋敷の中へ入りやすくなり、準備は整いつつありました。
「あとはアレッサが間に合うかどうかだな」
「おーい、食料持ってきたぞー」
「今日もたくさん採れました」
グレイクの呟くと同時に森の中へ食料を探しに行っていたアゼラとミアが帰ってきました。ノンのマジックバックの中には一か月は持つほどの物資が詰め込まれています。しかし、この先、物資の補給ができなくなる可能性を考慮し、物資は温存しておこうという話になり、アゼラたちが中心となって食料を集めていました。
「ほら、見てくれよ! この鹿、おれが捕まえたんだぜ!」
木を削って作った即席の槍を地面に置いたアゼラは引きずっていた大きな鹿をノンたちに見せました。隙を突いて首に渾身の一突きを入れたのか、鹿にはそれ以外の外傷はなく、肉だけでなく、皮も処理をすれば売れそうなほど綺麗です。
「狩りも上手くなったな」
「ミアが動物の場所を的確に教えてくれるおかげだ! マジですげぇんだぜ? こんな小さな鼠も見逃さねぇんだからさ!」
「も、もう……やめてよ、アゼラ」
街の様子やブレッドの打ち合わせで頻繁にナーティへ行っているノンや別行動しているアレッサ以外の三人は比較的、時間を持て余していました。そのため、その間にグレイクがアゼラたちに狩りの仕方を教えることになったのです。
アゼラはぶっきらぼうな性格のせいで最初の方は物音を立ててしまい、動物に逃げられたり、力の加減ができずに木の槍をへし折ったりとなかなか上手くいきませんでした。ですが、この一週間足らずでこれほど大きな獲物を捕らえることができたのは進歩と言っていいでしょう。
そして、ミアも魔力感知の精度が上がり、これまで以上に動物や魔物の位置を把握できるようになりました。また、アレッサから魔法を使う基礎的な練習方法を習い、彼女がいない間も訓練を続けており、闇魔法を使える日も近いでしょう。
「じゃあ、今日はその鹿でごちそうを作るね」
「やった! 頼んだぜ!」
ノンの言葉にアゼラが満面の笑顔を浮かべました。ナーティの街で祭りが開かれるのは二日後。その時まで彼らはジッと身を潜め――と、言っていいかわかりませんがその時が来るのを待ちます。
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