第32話 我儘
「あ、えっと……よろしくお願いします」
無事にオウサマと出会えたノンですが、彼の目的は家に帰ることです。変にツッコんで気分を害してしまったら取り返しのつかないことになりかねません。
「ああ、よろしく。あの階段を昇るのは大変だったろう。お前たち、椅子を持ってこい」
『はーい』
オウサマが命令するとノンの後ろにいた数体の精霊が部屋から出ていき、子供用の椅子を運んできました。そのまま彼の隣に置き、褒めて褒めてとその場でぴょんぴょんし始めます。
「うん、ありがとうね」
持って来てくれた椅子に座った後、ノンは精霊たちにお礼を言うと精霊たちは嬉しそうに踊り始めます。それが伝播したのか、椅子を持ってきた精霊以外の個体もびゅんびゅんと飛び回りました。
「……ずいぶんと好かれているな」
「え? そうですか?」
そんな彼らを見ているとオウサマから声をかけられ、首を傾げます。そういえば、部屋に入ってきた時に彼を見て驚いていた様子でした。
「ああ、ここに来る時点で精霊に好かれているのだが……これほどの数の精霊を連れ添ってきた子は初めてだ」
「そうなんですねー」
人懐っこい性格なのでどんどん集まってきていると思っていましたが、どうやらノンは特別、精霊に好かれやすい体質だったようです。
「まぁ、いい。本題に入ろう。ここに来てもらったのはお前を家に帰すためだ」
「はい、この子たちから聞きました」
「……聞いたのか?」
「は、はい。何か、まずかったですか?」
「いや、精霊はいい意味でも悪い意味でも自由だからな。質問しても頓珍漢な返事をすることが多い。きちんと自分の知りたいことを聞き出せた子は初めて……はは、二度も初めてなことが起きるとはな。お前は普通の子供とは違うようだ」
愉快そうに笑うオウサマでしたが普通じゃないと言われ、ドキッとしてしまうのは転生者の性でしょう。ノンには前世の記憶があり、幼い妹のお世話をしていたこともあって子供に似ている精霊の扱いもそれなりに慣れています。どこか変な精霊だったとしても国の代表を務めているオウサマは目の付けどころが鋭いようでした。
「あ、あはは……えっと、家に帰してもらえるってことでしたが……」
「おっと、すまない。いきなりこんな森に連れて来られて心細かったろう。すぐに帰してやる」
「よかった……」
『だめー!』
『いっしょにいるのー!』
『あそびたーい!』
『いかないでー!』
精霊の言葉を疑っていたわけではありませんがその言葉を聞いてほっとしてしまいます。ですが、その安堵のため息は後ろから届いた精霊たちの悲鳴によってかき消されました。
「え、ええ?」
「お、おい。お前たち、この子が可哀そうだろう? 家に帰してやらねば」
好かれている自覚はありましたがここまで大反対されるとは思わず、ノンは目を白黒させてしまいます。オウサマも精霊たちの反応が予想外だったようで慌てた様子でたしなめました。
『むりー!』
『すきー!』
『いやー!』
「いつもなら寂しくてもバイバイできるじゃないか! どうして、今回はそんな我儘を言う!」
『ばいばいしなーい!』
『ずっとここにいるー!』
『すきすきー!』
「あ、あはは……」
ぎゃあぎゃあ騒ぐオウサマと精霊たちにノンは苦笑を浮かべ、本当に家に帰られるのだろうかと少しだけ不安になってしまいました。
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