第340話 捕縛
包帯で縛られた領主の男性はノンの姿を見つけると大きく目を見開きました。まさか侵入者が幼い子供だとは思わなかったのでしょう。驚きのあまり、暴れることを止めてしまうほどでした。
「殺すつもりはありません。そのまま話を聞いてください」
その隙にノンはゆっくりと男性に近づき、命の保証を約束します。ですが、すでに包帯でぐるぐる巻きにされている本人からしてみれば安心できるわけもなく、我に返ってまたもがき始めました。
「僕は銅級冒険者のノンって言います。これが冒険者カードです」
今のところ、大きな音は出ていませんがいつ誰かが来るかわかりません。懐から冒険者カードを取り出して自分の正体を明かしました。
「……」
冒険者、と聞いて男性は動きを止め、そのカードを凝視します。そして、偽物ではないとわかったのか、暴れるのを止めてくれました。
「端的に言います。あなたのやっていることは全てわかっています。ケレスカ大陸から獣人を攫い、奴隷商に売っていること。そのために崖下にある小さな洞窟を利用してること……そして、あなたはその悪事に仕方なく協力してること」
「ッ――」
「領主さん、詳しい話を聞かせてくれますか? 多分、協力できると思うので」
「……」
ノンの言葉に目を見開いた彼は数秒ほど硬直した後、目に涙を浮かべながらこくりと頷きました。その涙にどんな思いが込められているのか、ノンにはわかりませんが項垂れている姿を見て心にチクリと痛みが走ります。
「解きますね」
そう言って包帯を解くと男性は不安そうな顔でノンに視線を向けました。そして、彼が三十台前半ほどの男ということがわかります。
(領主にしては若いような……)
「本当に……協力してくれるのか?」
彼の見た目に目を細めるとそれに気づいていないのか、領主は震える声でそう問いかけてきました。まるで、藁に縋るような悲痛な顔。
「……はい、きっと」
そんな顔をされてしまったらノンは断れません。きっと、アレッサに『また自分から巻き込まれた』と呆れられるでしょう。
「そうか……そうか」
きっと、領主も余裕がなかったのでしょう。子供相手だというのに心の底から安心したように言葉を零します。
「話してくれますか? 一体、何があったのか」
「ああ、話すよ」
書斎だと使用人が来る可能性があるということでノンは領主と共に彼の寝室に移動しました。
「ここなら落ち着いて話せるだろう。改めて、私はナーティ周辺をまとめている『ブレッド・キャリル』だ」
「ブレッドさん……いえ、貴族様なのでキャリル様と呼んだ方がいいですか?」
「いや、ぜひ、ブレッドと呼んでほしい……私に貴族を名乗る資格はないからな」
ブレッドはそう言った後、諦めたような顔で肩を落とします。だいたいの事情を把握しているとはいえ、彼も利用された被害者の一人であるため、ノンは何も言えずに目を伏せました。
(痩せてる……)
領主の寝室にはソファや椅子がいくつか置いており、その中の一つに座っている彼は酷く痩せこけ、今にも倒れてしまいそうでした。きっと、ろくに眠れておらず、食事もままならないのでしょう。
「何があったんですか?」
「何があった、か。そうだな……やはり、事の発端は魔族との戦争が始まったことだろう」
昔を思い出すようにどこか遠い目をしてブレッドは語ります。このナーティの街で何が起こったのか。
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