第339話 書斎
こんなところで考え込んでも何も解決しません。ノンは領主の寝室を後にして残っている部屋のうち、魔力反応のない方へと入ります。そして、すぐに目を見開きました。
(キッチン?)
そう、そこは綺麗に整理されたキッチンだったのです。普段から使用されているのか、洗い終わった調理器具や食器が並べられていました。
「……」
応接室に招かれた客に対してお茶を淹れたり、領主が仕事で夜遅くなった時に夜食を作るために二階に作られたのでしょうか。それはわかりませんがこれで残されたのは魔力反応のある部屋となりました。
(さて、どうしようかな)
領主が寝るまで待つのもありですが、グレイクが戻らないノンを心配して動く可能性があります。しかし、一度、屋敷を脱出して彼に状況を説明した後、再び屋敷に戻って来られる保証はありません。
「……」
少しだけ思考を巡らせたノンは洗い終わった食器の中にあった小さな鍋を手に取って右の包帯をテーブルに置いた後、その上にそれを設置しました。そのまま、包帯を伸ばして鍋が落ちないようにしながら部屋を出ます。そして、包帯の位置を調整しながら扉を閉めました。
「っ……」
小さく息を吐いた後、ノンは一気に包帯を縮めて回収し、急いで天井に向かって包帯を伸ばして階段の時と同様に天井に潜伏します。それとほぼ同時にキッチンから鍋が落ちる音が響き渡りました。
(動いた!)
深夜に誰もいないはずのキッチンから物音がしたからでしょう。魔力反応がゆっくりと動き出し、ガチャリと音を立てて扉を開けました。そして、視界の端で誰かが廊下を歩き、隣の部屋へと入ります。
その隙にノンは誰もいなくなった右奥の部屋へと侵入。さっと周囲を見渡すと窓際に仕事用の大きな机。誰かが来た時に座ってもらうための大きなソファとテーブル、いくつもの本棚がありました。きっと、ここが領主の書斎なのでしょう。
「ッ……」
物色している時間はありません。咄嗟にテーブルの下に潜り込みました。そして、それから数十秒ほど経った後、キッチンの様子を見に行った人が部屋に戻ってきます。
「……」
足音が近づくにつれ、ノンの心音も大きくなっていきます。ですが、ノンの体が小さかったおかげで特に気づかれずにその人は仕事用の机に向かって作業に戻りました。
「違う……これじゃ駄目だ……なら、こっちは」
ブツブツと何かを呟きながら紙に何かを書き込む音が聞こえます。しかし、仕事が進んでいないのでしょう。ぐしゃりという音と共にテーブルの傍に丸められた紙くずが落ちてきました。
「……」
紙くずを落とした人は新たな紙を用意して同じように何かを言いながら書き始めたため、ノンは包帯を伸ばしてその紙くずを回収。音が鳴らないように慎重に広げて中身に目を通します。
「ッ!?」
そして、その内容に思わず目を見開きました。
リフトや旅客船を買った資金の出所。毎月のようにある祭り。上町と下町の物資周りの仕組み。上町の下にある小さな洞窟と魔力反応。獣人を攫うことに加担していた男たち。彼らを売って設けたお金の行方。領主に対する違和感。
(そうか……そうだったんだ)
それらが一気にノンの頭を駆け巡り、ようやく事の真相に辿り着きました。
「……」
答えを見つけたノンはテーブルの下に隠れながら床を這うようにして包帯を伸ばします。仕事用の机で作業する人――領主に気づかれないようにゆっくりとその先端を回り込ませました。
「なッ――むぐっ」
そして、一気に領主へと包帯が襲い掛かり、その体を椅子ごと縛り付けます。もちろん、大声を出させないように口を塞ぐのを忘れません。
「暴れないでください」
ガタガタと包帯から逃れようと暴れる領主に対してノンはテーブルから出ながら声をかけました。
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