第31話 王様
螺旋階段を昇り続け、どれほど経ったでしょう。精霊たちと遊ぶのに夢中になっていた彼は気づけば王様のいる部屋の前に立っていました。見上げるほど巨大な扉にゴクリと生唾を飲み込みます。
「王様はここにいるの?」
『いるー』
『ここー』
「そっか、ありがと」
すっかり、仲良くなった精霊たちに聞くと全員が一斉に答えたので間違いないようです。
(王様、か……)
精霊の王様。後ろにいる彼らは幼い子供のようですが、王様はどうなのだろうと少しだけ不安になります。
威厳のある大きな髭を生やし、玉座に座っている? それとも、王様も精霊たちのように天真爛漫? あまり想像がつきません。
「……よし」
ですが、ノンの目的は家に帰ること。エフィたちから離れてそれなりに時間が経っています。今頃、彼を探しているに違いありません。こんなところで怖気づくわけにはいきませんでした。
覚悟を決めたノンは扉に手を当てます。すると、特に力を入れていないのに勝手に扉が開き始めました。
『よいしょー』
『てつだうー』
『おせー』
そんな声が聞こえ、上を見ると一緒についてきてくれた精霊たちが扉を押してくれていました。それがどこか微笑ましく、自分のために頑張ってくれていると考えると心がポカポカと温かくなります。
「みんな、ありがとね」
ノンが小さな声でお礼を言った時、王様の部屋の全貌が明らかとなりました。
「……あれ」
ですが、目の前に広がった光景に少しだけ唖然としてしまいました。王様の部屋は立派な玉座とその傍らに置かれている巨大な地球儀のような装置以外に何もなかったのです。
「これ、は……」
そして、なによりその玉座に腰掛けていたのは青いドレスに身を包んだ麗しい美女だったのです。
澄んだ海のような長い青髪。その頭に小さな王冠を付け、こちらを驚いた様子で見つめていました。
(この人が、王様?)
精霊たちと遊んでいたせいで彼の中で精霊=子供という方程式が成り立っていました。そのせいで余計に大人の女性にしか見えない彼女が王様だとすぐに信じられなかったのです。
「王様、ですか?」
「あ、ああ……」
このまま見つめ合っているわけにもいかず、ノンは戸惑いながら質問すると精霊の王様もどこか放心した様子で頷きます。その際、彼女の綺麗な青髪が揺れてキラリと光りました。
「そうだな……まずはようこそ、精霊の国へ。私はこの国の代表を務めているオウサマだ」
「……ん?」
少しだけ違和感を覚え、彼は首を傾げます。この世界に産まれてから明日で五年。それなりに異世界の言葉に慣れたと思いましたが、彼女の言い回しが少しだけ引っかかります。
「王様?」
「ああ、オウサマだ」
「この国の王?」
「いや、『コノクニノオウ』という名前ではない。オウサマという」
どうやら、彼女は精霊の国の王様ではなく、オウサマという名前のどこか変な精霊のようです。
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