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英雄くんはおうちに帰りたい  作者: ホッシー@VTuber
第五章 英雄くんは獣人たちと和解したい
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第328話 領主

「悪いな、ついてくることになっちまって」

「いえいえ、全然」


 漁師の男性は午前中に漁を終え、その片づけをしている最中だったらしく、漁の道具が置いてある小屋に向かうことになりました。ノンとしては話を聞ける上、漁師がどんな生活をしているのか気になったため、むしろお願いしたいところです。


「風が気持ちいいですね」

「ああ、海からの風だけじゃなくて上町のある崖に当たって違う方向からも吹き込むんだ」

「へぇ」


 確かに男性の言うとおり、肌で感じる風は一方向からではなく、上町のある方からも吹いているように思えました。


「上町って崖の上なんですよね? 行き来は大変じゃないですか?」

「まぁ、歩いて行くのは大変だなぁ」


 男性はそう言いながら上町の方へと視線を向けます。上町は下町から伸びる長い坂の上にありました。更に崖の上に繋がっているからか、傾斜がきつくて徒歩での移動には苦労しそうです。


「でも、あそこに見えるリフトで荷物のやり取りはできるんだ」

「リフト?」


 男性の指先を追いかけると上町から下町は四本の太いロープで繋がれていました。その間を大きな木の板がゆっくりと行き来しています。まさしくあれは木造のリフト。あの木の板の上に荷物を置き、滑車を利用して上町から下町へ、下町から上町へ荷物を運ぶのでしょう。


「まぁ、人を運ぶのは危ないから結局、自力で登らなきゃならねぇんだがな」


 木の板には柵がなく、リフトも海の上を移動するため、足を踏み外せば海の藻屑となるでしょう。荷物に関してはロープを幾重にも繋いで固定しているのか、遠目から見てもビクともしていないようです。


「荷物はどんなものを運ぶんです?」

「あの上にはこの辺をまとめてる領主様がいるんだよ。他にも住んでる人がいるから主に食料だな」

「お金とかはどうするんです?」

「一定期間で決まった量の食料を収めてるんだ。それで下町の奴らは食料を提供してその比率によってお金が貰える」

「なるほどー」


 どうやら、上町の人々は下町に食料の供給を頼っているようです。坂を下りて自分で食料や商品を手に入れる人もいるでしょうが、多少、割増しになったとしてもリフトで運んでもらった方が楽なのは間違いありません。


「でもなぁ」

「何かあったんですか?」


 そこまで話したところで漁師の男性はどこか浮かない顔でボソリと呟きます。もちろん、それを見逃すノンではありませんでした。


「ん? いや、数年前はもっと賑わってたのになって。今は海路……あー、海の向こうにある他の島に行けないからそれを利用してた奴らが来なくなっちまったんだよ」

「漁はできるんですよね?」

「ああ、でも、そんな遠くまでは行かねぇ。街から見える距離で漁をしてんだ」


 『遠くの海の方が獲れる量は増えるんだけど』と男性は諦めたように苦笑を浮かべ、ノンの頭に手を乗せました。


「そうなんですね……あんなに船があるのに」

「いや、あれでも減った方だぞ。今、この街にあるのは漁船だけで人を運べるほど大きなものは領主様に売っちまった」

「売った?」

「維持費もかかるから持ってるだけで金がどんどん溶けるんだよ。だから、困ってる俺たちを助けるために領主様が売値よりも高額で買ってくれたんだ」


 男性にとってこの街の領主は好印象のようで笑って頷いています。確かに魔族との戦争により、使い道を失った旅客船を買うのは領主として間違っていないでしょう。


「そうなんですね」


 しかし、その話を聞いてノンはどこか引っかかる感覚を覚え、愛想笑いを浮かべた後、ジッと上町の方を見上げました。

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