第320話 規格外
「――うん、水晶玉の中にある私の魔力を感じ取ったみたいね」
ミアが不思議に思っているとアレッサはどこか嬉しそうな声でそう言います。思わず、目を開けて顔を上げると彼女は水晶玉に手を添えながらミアに笑いかけていました。
「今の感覚でもう一回。私と私の手から流れる魔力。そして、水晶玉の内部に注がれた私の魔力に集中して」
「わ、わかりました!」
ミアはもう一度、目を閉じて意識を集中させます。イメージは燃え上がる炎。先ほどよりも明確なイメージがあるおかげですぐにアレッサの魔力を感じ取ることができ、彼女の手から水晶玉に注がれる魔力の流れも何となくですが掴めました。
「うんうん、筋がいいわ。じゃあ、次は遠くにいるアゼラとグレイクの魔力を感じ取ってみましょ」
「……」
『ノン君は?』と疑問に思いましたが今は彼女の言うとおりにしましょう。アレッサの魔力は大きくわかりやすかった。しかし、グレイクたちは獣人であり、その身に宿す魔力は多くありません。
「……」
ですが、魔力を感じるコツを掴み始めているおかげでしょうか。模擬戦をしている方へ意識を向けるとぼんやりとですが揺らめく何かを察知します。
一つは凪いでいる海のような穏やかな何か。もう一つはアレッサとは違う炎――火花、と表現するのが最も近いでしょうか。バチバチと弾けるような印象を受けました。きっと、海の方はグレイク。火花はアゼラなのでしょう。もし、アゼラに魔法適性があったのなら火属性になりそうだとミアは少しだけ苦笑を浮かべてしまいました。
「……」
しかし、わかったのはそこまで。アゼラと戦っているはずのノンの魔力は一切、感じ取れません。ぽっかりと空間に穴が開いている、というわけでもなく、本当にそこには何もなかったのです。まるで、最初からノンという少年はいなかった、と言われているようでした。
「ッ……」
ミアは慌てて目を開けてノンたちの方へと視線を向けます。そこでアゼラが地面に仰向けに倒れ、『くっそー!』と悔しがっており、そんな彼にノンは微笑ましそうに笑いながら手を差し伸べていました。
「ノンの魔力も探ったのね」
「あ、えっと」
「いいのよ。前にも言ったでしょ。あの子は特別。魔力を一切、体外へ放出しない体質なの」
生物は必ず魔力を宿して産まれる。いえ、生物だけではありません。数は少ないものの、無機物ですら魔力を持っている物もあります。そして、それらは例外なく、外へ溢れるもの。そう本には載っていました。
「魔力が漏れないなんて」
だからこそ、アレッサの言葉をすぐに信じられませんでした。しかし、やはりどうしてもノンから魔力は感じられない。
「ううん、あの包帯からも……」
そして、アゼラに強請られて包帯を使って大槌を作ったのを見て更に驚いてしまいました。この手に持つ水晶玉は魔道具であり、その中からアレッサの魔力を感じ取れます。ですが、同じ魔道具であるあの包帯からは何も感じません。
「あの包帯も不思議なのよね。動かすだけでも膨大な魔力を消費するのにそれが一切、感知できないの」
「そんなことってあり得るんですか?」
「あり得るんだからあの子は銅級の冒険者になれたのよ」
そう言ってアレッサはミアが持っていた水晶玉をそっと取りました。そして、彼女の頭に手を置いて笑います。
「でも、あなたも十分すごいわ。獣人なのに魔法適性はあるし、魔力量も申し分ない。なにより、ちょっと意識しただけで魔力感知のコツも掴んだ。これから一緒に頑張りましょ」
「ッ……はい!」
褒められたのが嬉しかったのでしょう。ミアはアレッサの言葉に元気よく頷きました。
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