第315話 才能
「――」
模擬戦が始まってすぐ、アレッサの雰囲気が変わりました。普段は面倒臭そうに顔を歪ませながらなんだかんだ世話を焼いてくれるお姉さん、という感じですが今は触れた瞬間、その部分が切り裂かれてしまいそうな鋭さが溢れています。
「ッ……」
その威圧にアゼラは目を見開き、持っていた大槌がぶるりと震えました。そして、その刹那、彼の前にアレッサが移動して右拳を突き出します。その拳から放たれた風圧でアゼラの前髪が揺れました。
「動揺は武器に出るよ。集中して」
「ぁ……ッ!!」
いつもより僅かに低い声。ですが、負けん気の強いアゼラは全力で大槌を横なぎに振るいます。しかし、アレッサはその場で軽く跳躍してそれをやすやすと回避。空ぶったことでバランスを崩したアゼラの頭へ拳を――叩き込む寸前でそれを止めました。
「私、このパーティーの前衛なの。これで理解した?」
「……はは、やべぇ」
たった数秒のやり取りでアレッサの底知れぬ実力を思い知ったのでしょう。アゼラは歯茎をむき出しにして嬉しそうに笑いました。その野生染みた笑みを見てアレッサもいつもの人を殺しそうな眼光で熊族の子供を見下ろします。マジカルヤンキーを初めて見たミアは小さく悲鳴を上げました。
「こ、れはっ」
雰囲気がガラリと変わったアレッサを前にアゼラも顔を引きつらせます。しかし、それでも彼からは戦意が失われていません。冷や汗を流しながらも自身を睨みつける獣人の子供にアレッサは更に笑みを深めました。
「じゃあ、続きをやろうぜ」
「ぐっ」
アレッサは乱暴な言葉を吹き飛ばすようにアゼラに向かって拳を振るいます。それを咄嗟に大槌で受け止められたのは彼のセンスでしょうか。
しかし、子供特有の体重の軽さによってアゼラの体は吹き飛ばされ、地面に背中から落ちてしまいます。その隙に彼女は再び彼へと迫りました。
「アゼラッ!」
「ッ!」
模擬戦ということも忘れ、ミアが彼の名前を叫びます。その声でアレッサが迫っていることに気づいたアゼラが顔を起こすと同時に大槌を地面に叩きつけました。
大槌を振り下ろした勢いと地面に叩きつけた反動により、体重の軽い彼の体は飛んだ。そのまま放物線を描き、アレッサの頭上を跳び越えました。更に飛距離を伸ばすために大槌を何度か振るい、その遠心力を利用してアレッサから十メートル以上離れた場所に着地したのです。
「……へぇ?」
一瞬だけですが大槌を使いこなしたアゼラにアレッサはノンの時と同じように感心したように声を漏らしました。
「ぁ、今、おれ、なにやって……」
本能で動いたのでしょう。アゼラは自分の行動に思い出したのか、目を見開いて大槌を見つめます。ですが、今の流れるような動きは偶然という言葉で片付けるにはあまりに――。
「……よし、今日はここまでね」
「え?」
そんな彼を見てアレッサはいつもの様子に戻り、構えを解きました。もちろん、アゼラも目を見開き、茫然と声を漏らします。
「大槌、あなたにはピッタリかもね。私もかじった程度だけど教えられることは教えるから」
「あ、お、おう! わかった!」
アレッサの言葉にアゼラは戸惑いながらこくこくと頷きました。そんな彼らを見てノンは微笑ましそうに笑みを浮かべながら大槌を解きます。
「じゃあ、まずは体力作り! どんな冒険者も体が資本! さぁ、私についてきなさい!」
「よっしゃ、やってやる!」
模擬戦をしたからでしょうか。普段よりもテンションが高い二人はノンたちを置いて走り出してしまいました。シャトルラン方式の走り込みなので放っておいても戻ってきますがノンもマジックバックを背負い、二人の後を追いかけます。そして、グレイクとミアも少しだけ遅れて歩き始めました。
「こら、もっと姿勢を意識して走りなさい!」
「ぎゃぁ、背中叩くんじゃねぇ!」
大槌を扱う才能を見せたアゼラですが、立派な前衛になるにはまだ時間がかかりそうでした。
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