第314話 大槌
「え? アゼラが私を後衛だと思ってる?」
「はい、そうなんです」
アゼラがまだ勘違いしていると気づいてから早数日。何度か彼の間違いを正そうとしたノンですが何かと邪魔が入り、未だに訂正できていませんでした。そのため、休憩の途中で当事者であるアレッサに相談したのです。
「まぁ、この二週間は移動に集中してたから魔物とは戦ってなかったものね」
「はい、盗賊も来ましたが夜でしたのでアゼラは戦いを見てなかったですし」
まだ旅を始めたばかりなのでアゼラとミアは夜の見張りは免除されており、ノン、アレッサ、グレイクの三人で交代して見張りをしていました。そのため、盗賊が襲ってきた時、アゼラたちは安全な白いドームの中で眠っており、戦いがあったことすら気づいていないかもしれません。
「多分、あの子の場合、口で言ってもすぐに信じないでしょうね」
「あー……」
アゼラは良くも悪くも自我の強いタイプです。そのため、納得のできないことは信じない傾向にあり、ノンの言葉もすぐに冗談だと一蹴してしまいました。
「んー……あ、じゃあ、実際に戦ってみればいいか」
そして、そのせいでアレッサがノンを相手にする感覚でアゼラとの模擬戦を決めてしまったのです。
「なぁ、これ意味あんのか?」
その日の午後、お昼休憩が終わった後、いつもならすぐに出発するところですがアレッサがアゼラを模擬戦に誘いました。しかし、彼は頷きましたが彼女が後衛だと思っているため、あまりやる気はないようです。
「ノン、包帯で武器は作れる?」
「形だけなら……どんな武器にしますか?」
「アゼラ、どんな武器を使ってみたい?」
「武器? じゃあ、前に言ってた大槌で頼む!」
以前、グレイクから熊族の腕力を活かすなら大槌がいいと勧められたのを覚えていたのでしょう。アゼラは興奮したようにノンの前に移動して目を輝かせます。そんな彼に苦笑を浮かべながら包帯で大槌を作りました。しかし、包帯で作られているため、白い大槌から一本の包帯が伸び、ノンの袖まで繋がっています。
「一応、邪魔にならないように操作するけど気を付けてね」
「おう! ありがとな!」
新しいおもちゃを貰った子供のように大槌を振り回すアゼラ。硬質化させているため、それなりに重たいはずですが彼はあまり気にならないようです。さすが熊族といったところでしょうか。
「大槌の使い方は今後、みっちり教えるとして……今日は実践の雰囲気を感じ取るのが目的よ」
「わかった! お前の魔法なんか打ち返してやる!」
「……」
アレッサの言葉に頷くアゼラでしたがノンの隣に立っていたグレイクが頭を抱えてしまいました。彼女の実力を知っているため、この後の展開が読めてしまったのでしょう。
「ねぇ、ノン君」
「ん? どうしたの?」
そろそろ模擬戦が始まる、といったところでミアが少し不安そうな顔をして近づいてきました。
「アレッサさんって前衛だよね? アゼラ、大丈夫かな?」
ミアは斥候を目指しているため、色々なことに気づきやすく、ノンにパーティー構成に疑問を持ったことがありました。魔法使いのアレッサ、弓使いのグレイク、包帯を使って戦うノン。この中で前衛を務められそうなのがノンしかいなかったことが不思議だったのでしょう。その時にアレッサが前衛だと教えたのです。
「まぁ、師匠のことだから大怪我はさせないじゃないかな? もし、やばそうなら割って入るから大丈夫」
「え、それは大丈夫って言わないんじゃ……」
「じゃあ、始めるわよ」
「よっしゃ、来い!」
ミアが顔を引きつらせている間にアレッサとアゼラの模擬戦が始まってしまいました。
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