第29話 大木
「おー……」
大木の根元に辿り着いたノンは首が痛くなるほど上を見ながら感嘆の声を漏らします。遠くからでもその大きさには驚かされましたがこうやって間近で見るとその迫力に言葉を失ってしまいました。
『ごーごー』
『いそぐよー』
『もうすこしー』
『どうしたのー?』
「なんでもないよ。さ、行こ」
そんな彼の背中を精霊たちがぐいぐいと押し、特に抵抗もせずに大木に空いた穴――伽藍洞へと足を踏み入れます。ここに連れて来られた子供たちが家に帰ることができると聞いたからか、不安で揺れていた心も落ち着いてきたのでしょう。
「わぁ!!」
大木の中はくり抜いたような構図であり、その中央に天高くへと続く螺旋階段が彼を出迎えます。そして、なによりその螺旋階段を照らすように数えきれないほど精霊たちがふわふわと飛んでいました。
赤、青、黄色、緑、紫。色の濃淡はありますが色は五色のみ。ですが、そんな小さな光が飛び交う景色は前世も含めて見たことのないほど幻想的なものでした。
『あ!』
『こども!』
『あたらしいこ』
『かわいい!』
『なかま!』
その光景に見惚れていると近くを飛んでいた精霊たちがノンの存在に気づき、ゆらゆらと近づいてきます。これまで案内してくれた四人の精霊たちは彼らを出迎え、くるくると踊るようにその場で旋回。言葉はなくともとても喜んでいるのがわかりました。
「あ、えっと……よろしくね?」
『よろしくー』
『わーい』
『おうさまにあう!』
『いっしょにいく!』
『れっつごー』
くるくる。くるくる。くるくる。
そう言いながらも精霊たちはノンを歓迎するように彼の周りを動き回ります。そんな彼らにノンは思わず、笑みを浮かべてしまう。
『どんなこー?』
『すきー』
『きれー』
『いつざいー』
『いいこー』
『わー』
「え、ちょ、ちょっと?」
ですが、彼の元へ精霊たちがどんどん集まってきます。その誰もがノンに友好的であり、嬉しそうに踊り始めてしまいました。
そのせいで彼の目の前はカラフルな光で溢れ、巨大な螺旋階段すら見えなくなってしまいます。
(これじゃ先に進めないや)
精霊たちがどれほど頑丈かわかりませんが楽しそうに踊っている彼らを押しのけるのは良心が痛みます。しかし、軽く声をかけてみましたが精霊たちは踊るのに夢中で聞こえていないようでした。
(……よし)
「……ちゅうもーく!!」
仕方なく、ノンはこの世界に生れ落ちてから初めて大きな声を張り上げます。これで気づかれなければ彼らが落ち着くのを待つしかない。そんな予想とは裏腹に精霊たちはピタリと動きを止め、ノンへ視線を向けた――ような気がしました。
「さぁ、螺旋階段を昇るよ! みんな、僕の後ろに移動して!」
これはチャンスだと彼は『これから楽しいことが始まるぞ』と言わんばかりの笑顔を浮かべて精霊たちを誘導します。
彼らの精神年齢はノンに比べ、低いように見えました。そのせいでしょうか、前世で幼かった妹をあやした時のことを思い出し、自然と動いていたのです。
『はーい!』
『うしろー』
『のぼるー』
『いこー』
『わー』
ノンの作戦は見事に成功し、精霊たちはノンの後ろへ移動しました。これで螺旋階段を昇ることができます。
「王様って上だよね?」
『うえー』
「よーし、じゃあ、僕についてきてー!」
『はーい!!』
ノンの号令に大木の中にいた全ての精霊たちが一斉に答えた後、ノンは精霊の王様へ会うために螺旋階段を昇り始めました。
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