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英雄くんはおうちに帰りたい  作者: ホッシー@VTuber
第四章 狩人さんは想い人に会いたい
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閑話4 これから

「ギルドマスター、こちらを」

 王都の西区にある冒険者ギルド。ギルドマスターの部屋にやってきたギルド職員が手に持っていた手紙をギルドマスター――『アリス・ブラウン』に差し出した。

「これは?」

「ボアレの冒険者ギルドからギルドマスター宛てに」

「私に手紙?」

 首を傾げながら手紙を受け取ったアリスは差出人を確認しようと裏返し、目を見開く。そこには予想外の名前が書かれていたからだ。

「ノン?」

 差出人の名前は『ノン』。二か月ほど前に出会ったアレッサの弟子。最年少の冒険者であり、すでに銅級――いや、それ以上の実力を持つ不思議な子供だ。

(どうして、ノンが私に?)

 会ったのはたった一度きり。それも自分の妹であるアレッサの様子を聞こうと呼びつけただけの関係である。

 しかし、少なくとも手紙を読まずに捨てる相手ではないため、彼女はペーパーナイフを使用して手紙を開封。その中には便箋が一枚だけ。内容的にはそこまで長くないらしい。

「……」

 すらすらと手紙を読み、少しずつ眉間にしわが寄っていく。それを見たギルド職員はあまり良くない内容なのだと悟った。

「……はぁ」

「あの、どのような内容だったんですか?」

 手紙を読み終え、大きなため息を吐いたアリスにギルド職員は思わず問いかけてしまった。常に冷静で貴族としての振る舞いを心掛けているアリスがここまで取り乱すのは珍しいからである。

「んー、痛いところを突かれたって感じ? ノンが受けた依頼に情報の齟齬があったんだって」

「え、それは……」

 冒険者ギルドは依頼を受注する際、必ず裏取りを行う。その依頼が偽物であり、依頼を受けた冒険者を罠に嵌める可能性がゼロとは言い切れないからだ。

 だが、ノンという冒険者が受けた依頼は情報に誤りがあった。それは冒険者ギルドにとって信用を失う、あってはならないことである。そのため、情報の齟齬が発生しないように慎重に裏取りを行うのがルールとなっているからこそ、ギルド職員もその話を聞いて『まさか』とすぐに信じられなかった。

「ノンが受けた依頼は二つ。その両方とも、塩漬け依頼。ボアレの冒険者は実力が高くないせいで調査依頼すら受けられなかった。そのせいで情報にズレが生じたみたい」

「塩漬け……」

 王都の冒険者は実力者も多く、基本的に塩漬け依頼は発生しない。だが、ボアレのような小さな街では依頼ランクに見合った冒険者がいない時があり、誰もその依頼を受けないことがある。

 もちろん、冒険者ギルドもそんな依頼が発生した場合、近隣のギルドへ連絡して高ランクの冒険者に依頼を受けられないか打診してもらうようにお願いをする。

 だが、今は魔族との戦争中であるため、高ランクの冒険者は魔族が現れた地域に駆り出されていた。そのせいで塩漬け依頼を受けられる手の空いた冒険者がいないのである。

 また、ボアレの塩漬け依頼、『フォスイールの駆除』、『影兎の討伐』は緊急性の低い依頼だったため、連絡を受けた冒険者ギルドは相手にしなかったのだろう。

 そして、一年以上、調査をせずに放置。影兎の生態に関しての調査不足が発生。今回はノンたちが適切に対処できたおかげで大事に至らなかったが今後、同じようなことが発生した場合、依頼を受けた冒険者が大怪我――最悪の場合、死亡する可能性は十分あるだろう。

「それにその前には異常個体のブラックオウルとも戦ったそうよ」

「それはまた……」

「しかも、コボルドの群れ討伐依頼の時に他の冒険者が襲われてるのに気づいて夜の森で戦うことになったって」

「うわぁ」

 討伐対象以外の魔物に襲われることはある。しかし、他の冒険者を助けるためとはいえ夜の森で異常個体のブラックオウルと戦闘するのは自殺行為に等しい。ギルド職員は手紙の差出人に対して少しだけ引いてしまった。

「それで、情報の齟齬に関するクレームですか?」

「いえ、情報の齟齬が発生しないようにする案が書かれてたわ」

「は?」

「具体的には調査専門のギルド職員を配置してはどうか、というものね」

 ピラピラと手紙を軽く振りながらアリスはため息交じりに言葉を零す。しかし、それを聞いたギルド職員は信じられないと目を見開いていた。

「調査専門……今の体制では厳しいのでは?」

 現在、冒険者ギルドは依頼調査の依頼を出して冒険者に情報を集めてもらっている。しかし、その依頼調査の依頼にもランクがあり、実力のない冒険者はそれを受けない。そのせいでボアレでは情報の齟齬が発生した。

 なら、冒険者ではなく、調査に特化したギルド職員を育成して対応すればいい。それがノンの提案だった。

 もちろん、調査に特化した人員を育成するのは時間がかかる上、コストも計り知れません。無策で提案しても却下されることだろう。

「そうね。でも、魔族との戦争が起きてる今だからこそ通用するかもしれない」

 魔族との戦争は基本的に相手が攻めてきたところを迎撃する待ちのスタイル。いつ、どこに、どれほどの規模で攻撃を仕掛けてくるかわからず、後手に回ることもよくある。その場合、冒険者の派遣、市民の避難、物資の調達が整うまで時間がかかってしまっていた。

 しかし、もし、調査のスペシャリストを用意し、密偵として各地域に派遣した場合、魔族の侵攻をいち早く発見でき、攻撃に備えられる。育成に時間とコストはかかるが魔族の侵攻が激化していない今だからこそそんな人材を用意する余裕があるのだ。

「それに今は闇ギルドの動きが激しくなってる。そう言った意味でも諜報員は用意した方がいいわ」

 そう言ってアリスは先ほどまで読んでいた報告書をチラ見する。それは二か月前、手紙の差出人であるノンと彼女の妹であるアレッサが関わった事件の調査報告書だった。

(闇ギルド所属の男三人の遺体。そして、それ以外は見つかってない)

 きっと、口封じで同じ闇ギルドの奴らに殺されたのだろう。なにより、問題なのが遺体以外何もなかったこと。誘拐された『ノエル・ル・ブレゾニア』の話では奴らはヒュドラの毒刃を所持していたらしい。それは魔族がノンに向かって投擲したと言っていたため、魔族はヒュドラの毒刃を持っていない。ならば、戦場となった地下水道のどこかに落ちているはずだ。

(それがないとなると……闇ギルドが回収。おそらく、口封じで任務に失敗した男たちを殺したのはついでね)

 掠るだけ死に至らしめる死神のナイフ。それを闇ギルドが所持しているとなると下手に人海戦術で闇ギルドを探そうとして皆殺しにされる可能性が高い。ただでさえ魔族との戦争によって人材不足に悩まされているのにこれ以上、貴重な戦力を自ら削るわけにはいかなかった。

「……もう少し細部を考えれば上層部も考えてくれるわ」

 だからこそ、ノンの提案は試す価値がある。魔族や闇ギルドの情報を集める諜報機関。その設立と運用方法の立案。それがこの戦争を有利に進め、各地域の冒険者ギルドの調査不足問題を同時に解決する秘策となる。アリスはいつもより少しだけ口元を吊り上げ、ギルド職員へ必要な書類を持ってくるように指示を出した。

「さて、忙しくなるわ」

 そう言いながらノンからの手紙をもう一度、流し読みする。そして、小さく口を尖らせた。

「アレッサのメッセージとか一緒にいれてくれてもいいのに……」

 小さくため息を吐き、手紙を自身の机の引き出しへと放り投げ、アリスは今日も仕事をこなす。それが愛しい妹のためになると信じて。











「連絡が取れたのは二人か」

 ノンが精霊の国に迷い込んでから十一か月ほど経った。かつての仲間へ手紙を出したエフィーナたちだったが返事が来たのはたった二人。六人パーティーだったため、残り二人からの返答はない。届いたのに無視をしたか、まだ届いていないか。それとも、所在が不明であり、届けられなかったか。

「二人はなんて?」

「情報を集める、とは言ってくれてる。だが、自分の立場もあるから一緒に精霊の国を探すのは難しいらしい」

 二通の手紙に目を通したジェラルドは椅子の背もたれに寄りかかりながらため息を吐く。自分も役職を持っているため、そう簡単に国を出られなかった。それこそ、つい先日、国王の許可を得てやっと精霊の国を探しに行くことになったぐらいだ。

「その二人って?」

「イレイアとローガスだ。イレイアは孤児院の運営。ローガスは魔族の侵攻が激しい地域の砦に勤めてる」

 イレイアは中衛を担当していた軽戦士だ。前衛が崩したところを的確に貫くほど正確な剣技が特徴的な女性だった。

 ローガスは大斧使いの重戦士。タンクとは違い、攻撃と防御を交互に行う戦い方をしていた。エフィーナやジェラルドが所属していたパーティーの中で最年長であり、今年で三十五になる。

「そっか……途方もない旅になるだろうから無理は言えないわ」

 情報を集めてくれるだけでもありがたい。そう思うことにしたエフィーナだったが、問題の連絡が取れない二人の顔を思い浮かべ、小さくため息を吐く。

「レナートは……諦めた方がいいわ。あの子、自由過ぎて一週間と同じ場所にいないと思うから」

「それは同感だ」

 まだ二人がパーティーを組んでいた頃、最年少のタンクお嬢様、レナートはジッとしていられない性格であり、少し長めに街に滞在するだけで飽きたと駄々をこねるほどだった。そんなお転婆娘がパーティーを解散しただけで定職に就くとは思えない。正直、彼女についてはエフィーナもジェラルドも最初から諦めていた。

「残りはメララか」

 エフィーナたちのパーティー最後のメンバーはメララという火、土、風の三属性を操る小柄な魔法使い。魔力量はエフィーナを超えており、多くの属性を操る器用なエフィーナと大技で敵を薙ぎ払うメララという役割分担ができていた。

 彼女も薄情な人間ではないが問題は彼女が住んでいる街までの距離。彼女からの返事が来ないのは物理的に遠いからだ。

「……決めた」

 数秒ほど思考を巡らせたジェラルドは二通の手紙をテーブルに置いて改めてエフィーナを見つめた。その目には覚悟の色が見え、彼女も夫の言葉をジッと待つ。

「最初の目的地はメルルが拠点にしてる……迷宮都市だ」

 そして、ジェラルドは自分の考えをエフィーナに伝えたのである。

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次回の更新は2/10(火)です。

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