第311話 お礼
「今の話、本当ですか?」
「はい、そうです」
ミアと共にボアレの街に帰ってきたノンは彼女を宿へ送り届けた後、冒険者ギルドに来ていました。そして、受付嬢に今回の依頼で判明した影兎の生態について報告したのです。
「影兎は強い魔物の傍にいる。更に広範囲の魔力感知を持っているため、冒険者が近づいただけで逃げてしまう。だから、これまで発見率が低かった……その話が本当ならとんでもないですよ!」
「あ、やっぱり、知られてなかったんですね」
冒険者ギルドが影兎の調査をしようにも逃げられてしまう。それに加え、調査をする時は強い魔物を避けて行動します。そのため、余計に影兎を見つける可能性が低くなっているようでした。これまで影兎が発見されていたのは共存先の魔物がいない個体だったのでしょう。
「その信憑性を調べるのはなかなか難儀しそうですが……あの森にいないマッドフロッグの魔石もありますし」
『しかも、こんな大きさ……異常個体ですよね』と受付嬢はつんつんと茶色い魔石を突っつきながら受付嬢は顔を引きつらせます。シスイール駆除の時は二人の金級冒険者がいたので子供であるノンがいてもそこまで気にしていなかった彼女ですが、影兎の生態を知った今、ノンがただの銅級冒険者ではないとわかったのでしょう。
「今回、ノン様が実力のある冒険者でよかったです。もし、依頼ランクと同程度の冒険者がこの依頼を受けていたと考えると……本当にすみませんでした」
シスイールの件もあるからでしょう。受付嬢はノンに対して深々と頭を下げて謝罪しました。魔族との戦闘により人手不足なのは理解できる。しかし、だからといって調査を怠り、駆除対象の情報に齟齬が生じたり、影兎の生態を知らず、不適切な依頼ランクを付けてしまったことに変わりはありません。ブラックオウルの時もそうですが、これに関しては完全に冒険者ギルドの落ち度です。
(僕が受ける依頼、こんなのばっかだなぁ)
ミアは斥候になるとやる気を出していましたがこれだけ調査不足が露見すると本格的にミアを斥候に仕立て、依頼を受ける前に色々と調査してもらった方がいいかもしれません。
「……あの」
冒険者ギルド。調査。斥候。そんな単語を羅列しているとふと思いついたノンは受付嬢に話しかけます。そして、その思いつきが上手くいきそうだったため、彼女と色々と相談した後、報酬金を受け取って冒険者ギルドを後にしました。
「ただいまー」
「おう、おかえり」
冒険者ギルドでの報告を終えたノンは宿屋へと戻り、男部屋に入ります。中にはアゼラしかおらず、筋トレをしているようでした。それを見て前衛として戦うために体作りを始めたと昨日の夜、寝る前に教えてくれたのを思い出します。
「グレイクさんは?」
「アレッサと話してる。明日、出発だってさ」
冒険者ギルドに行く前にアレッサにミアのことを伝えたため、旅のルートを改めて確認しているのでしょう。まだこの世界に詳しくないノンがいてもあまり意味はないので二人だけで話し合うことにしたようです。
「そっか。アゼラも明日のために筋トレのしすぎには注意してね」
「おう……なぁ、ノン」
マジックバックを降ろし、不足している物がないか確認し始めたノンにアゼラが筋トレを止めて話しかけました。いつもと様子の違う彼にノンは思わず振り返ってしまいます。
「どうしたの?」
「あ、いや……ミアのこと、なんだけど」
「何かあったの?」
影兎討伐後、宿屋に彼女を送り届けてからミアとは顔を合わせていません。もしかしたら、何か問題が発生したのでは、と彼は不安になってしまいました。
「ううん、そうじゃなくて……あいつのこと、元気づけてくれてありがと」
『それだけだから!』とお礼の言葉を言ったアゼラはノンに背中を向けて筋トレを再開します。どうやら、アゼラから見てもミアは元気になったとわかったのでしょう。
「……どういたしまして」
そんな彼の背中を見て苦笑を浮かべた後、ノンは自分のしたことが無駄じゃなかったのだとホッとしました。
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