第310話 思考
「そんな、こと……」
「それにさっきだってミアがいたおかげで影兎を見つけられたし、土蛙も倒せた」
「あれは私がいなくてもノン君なら倒してた!」
「でも、怪我してたかもしれない。ミアが情報をくれたからすぐに作戦を思いつくことができたんだよ」
確かにノンなら影兎も土蛙も倒せたでしょう。しかし、ミアがいなければ影兎が凶暴な魔物の傍にいる可能性には気づけず、土蛙の正体を掴めるまでもっと戦いは長引いていたかもしれません。
「もう一回言うよ。ミアがいてくれたおかげで僕は助かったよ、ありがとう」
「ち、ちがっ……私、は……そんな……」
ノンの言葉を拒絶するように何度も首を横に振るミア。もちろん、そんな彼女を放っておくわけもなく、彼は握っていた彼女の両手を持ち上げます。その動きに合わせてミアの顔もノンの方へと向きました。
「ミアの知識力と冷静に判断できるところ。きっと、それが君の強さ……考える強さだよ」
「考える、強さ……」
「だって、諦めたら考えることを止めちゃうでしょ? でも、ミアは諦めなかった。ずっと、考えて、考えて、考えて……生き残る可能性を探し続けた」
もし、彼女が途中で心が折れてしまっていたらノンたちと出会う前に餓死、または魔物や動物の餌食となっていたでしょう。でも、そうはならなかった。それはミアが最後まで考えることを止めなかったからです。
「大丈夫。ミアは強い。僕が保障する」
「……ううん、駄目」
一瞬、ミアの目が輝いたような気がしましたがそれを振り切るように彼女は頭を振ります。そして、顔を上げた時、ミアの雰囲気が変わりました。
「やっぱり、このままなのは嫌。知識はあっても生き残れなきゃ意味がない」
「うん、そうだね」
「だから、斥候ができるようになりたい。今日はノン君に情報を取ってもらったけど今度は自分で……自分の力だけでやりたい」
きっと、アゼラが前衛の練習をすると言った影響でしょう。彼女もまた、戦えるようになりたいと願ったのです。
「ミアならできるよ。僕も手伝うから」
「ッ……い、いいの?」
「もちろん、ミアたちの故郷に帰るまでの間だけど僕も、師匠も、グレイクさんも協力するよ」
彼女たちがどんな大人になるのか、今はわかりません。ですが、前衛や斥候ができるようになれば将来の選択肢は広がるでしょう。ましてや、この世界は前世よりも死が近い少し物騒な場所。戦えるようになればきっと、役に立つはずです。
「うん、ありがとう」
少しだけかもしれませんが罪悪感を拭えたのでしょうか。ミアは力なく笑ってお礼を言います。まだ油断はできませんがいい方向へと意識を向けることができたようです。
「じゃあ、帰ろう。冒険者ギルドにもちゃんと報告しないと」
「影兎の生態はギルドも驚くんじゃないかな? もしかしたら特別報酬が出ちゃうかも?」
「そうなったらみんなにお土産を買って行こ。多分、アゼラは僕たちだけで冒険慕って聞くと怒るから」
「ふふっ、そうかも」
ノンとミアは再び歩き始めます。森自体はそこまで広くないため、日が傾く頃にはボアレに辿り着けるでしょう。
「あ、そうだ」
その途中、何かを思い出したかのように声を漏らしたミアはノンの方へと顔を向けました。
「ん? どうしたの?」
「さっき、強さの話をしたでしょ? きっと、ノン君は信じる強さだね」
「え?」
「だって、君はいつだってみんなを信じてる。私のこともそうだったんだよね?」
彼女の言葉にノンは言葉を詰まらせてしまいます。ミアの言うとおり、ノンは基本的に人を信じていました。
アレッサのことも、グレイクのことも、アゼラのことも、ミアのことも。
信じているからこそ、彼はその人のために動けるのです。それが彼の――ノンの信じる強さ。
「ノン君、早くいこっ!」
待ちきれないのでしょうか、ミアはノンを置いてどんどん先に行ってしまいます。周りに魔物がいないことは魔力感知で確認済みですが置いて行かれるわけにもいかないのでノンもその後を追いかけました。
(信じる強さ、か……)
ミアに言われたその言葉はノンの胸をポカポカと温かくしてくれたような気がしました。
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