第309話 強さ
「色々な、強さ……」
ノンの言葉を繰り返すミア。あまりピンと来ていないのか、彼女の表情はどこか浮かない様子でした。
「うん、例えば誰かを支える強さ。挫けそうになってる人を元気づけて背中を押してあげる。それって簡単にはできないんだ」
そんな彼女にノンは笑いながら語ります。
思い浮かべるのは魔法使いの少女。その両手に魔法を纏い、この二か月間、ノンを支え続けていました。彼女がいなければきっと、ノンの旅はここまで順調ではなかったでしょう。
「あとは想い続ける強さ」
思い浮かべるのは狩人の男性。十年以上、仲の良かった幼馴染をたった独りで探し続けた男。これまで何度も挫けそうになったでしょう。でも、彼は今日この日まで幼馴染を想い続け、歩みを止めませんでした。
「そして、決して折れない強さ」
思い浮かべるのは熊耳の少年。奴隷になったはずなのにすでに彼は前を向き、自分できることはないか探しています。きっと、彼はとても強い人になるでしょう。
「……」
ミアにも思い当たる節があったのでしょう。自分にはない強さに思わず顔を俯かせてしまいました。
「……でもね。僕はミアもすごく強い子だって思うんだ」
「ッ――」
そんな彼女の両手を握り、ノンは優しい声音で言い切りました。それに対し、ミアは勢いよく顔を上げ、何かを叫ぼうとします。
「……」
ですが、口をパクパクと動かすだけで一向に声が出ません。それすらも彼女にとって苦しいことなのか、顔を歪ませてしまいました。
「わ、たし……強くない、よ」
「ううん、ミアは強いよ」
「だって、アゼラはもう……前を向いてるのに私はいつまで経っても震えてる。ずっと、ずっと怖いの」
「何が怖いの?」
「……何もできない自分が、怖い」
その言葉にノンは咄嗟に否定しそうになりました。ですが、すぐに我に返ってグッと我慢します。
「私のせいでアゼラがクレイウルフに殺されそうになっちゃった……あの日も私がアゼラを誘わなかったら奴隷にならなかった」
村の近くにある森で遊びながら食料調達をしていた時に襲われたと言っていましたがどうやら、ミアがアゼラを誘って森の中に入ってしまったようです。やんちゃなアゼラがミアを誘ったと思っていたので少し意外でした。
「全部、私のせい……私のせいでアゼラはすごく苦しんだ。それが、許せないの」
そう言った後、彼女の目から涙が零れ落ちます。きっと、これがミアを苦しめている根幹。自分のせいでアゼラが奴隷になってしまった、という自責。
「……きっかけはミアだったかもしれない」
そんなことない。そう言うのは簡単です。ですが、ミア自身が自分のせいだと考えている時点でその言葉は通用しないでしょう。
「でも、僕たちと出会った日まで生き残ったのはミアのおかげだ」
「……」
「馬車から咄嗟に逃げ出したのもミアがアゼラの手を引いたって聞いた。それから森の中を彷徨いながら食料を集め、魔物と会わないように行動した。アゼラだけだったら絶対にできなかったって言ってたよ」
『おれ、何もできなかったからさ。最後、クレイウルフに追いつかれた時、あいつだけでも逃がしたかったんだ。だって、だせぇだろ? 男が女に守られっぱなしってのもさ』
アゼラがクレイウルフに襲われ、ミアが茂みに隠れていた理由。それはこれまでミアに頼りきりになっていたアゼラが見せた男気だったのです。
「ミアは原因と結果ばかり気にしてるんじゃないかな」
「原因と結果?」
「うん、自分のせいで奴隷になっちゃった。最後までアゼラを守り切れず、クレイウルフに殺されそうになった。でも、その間にミアは何度もアゼラを助けてたはずだよ」
「……」
ノンの言葉にミアはゆっくりと顔を上げます。まだ不安そうにしていますが、それでも涙は止まっていました。
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