第308話 知識
無事に影兎の討伐を終えた二人はボアレに帰るために森の中を歩いていました。戦利品である二つの魔石はノンのマジックバックにしっかり収められています。
「土蛙が来た時は少し驚いたけど上手く倒せてよかったね」
「ほんと、生きた心地しなかった……」
仕事を終えたからか、気が沈んでいたミアも少し元気になったようで苦笑を浮かべながら肩を落としました。そんな彼女を見てノンは安堵します。
しかし、きっと時間が経てばまたミアは自分を責めるでしょう。制限時間は依頼達成のおかげで彼女の気分が高揚している間。その間に彼はミアをどうにかしなくてはなりませんでした。
「……ねぇ、ミア」
「ん?」
「よくあの蛙がマッドフロッグだって気づいたね。大きさ、全然違ったんでしょ?」
通常、マッドフロッグ――土蛙は大人ほどの背丈しかない蛙です。前世の蛙に比べたらそれだけでも大きいですが、ノンたちの前に現れた土蛙はまさに巨大。一体、何を食べたらあそこまで成長するのか、と考えてしまうほどの大きさでした。
「あ、えっと……実は魔力に関する本に高密度の魔力を取り込んだら魔物が巨大化するって書いてあったの」
「巨大化……」
ノンが夜の森で戦ったブラックオウル。ギルド職員は異常個体だと言っていましたがあの土蛙も同じだったのでしょう。
「だから、大きさ以外の特徴で一致する種類がマッドフロッグだったの。本に書いてた魔物でよかった」
「……」
安心したように息を吐くミアでしたがノンはそんな彼女の様子に少しだけもどかしい気持ちになってしまいます。
ミアは本を読んだから知っていると言っていますが本を読んだからと言ってそれがすぐに脳に定着し、咄嗟の時に情報を引き出せるわけではありません。彼女の記憶力がすごいのか、それとも定着するまで何度も本を読み直したのか。それは定かではありませんが少なくともミアの知識は常軌を逸しているでしょう。そうでなければ獣人とはいえ子供だけで何日も生き延びられるわけがないのですから。
「やっぱり、ミアはすごいよ」
「え、全然すごくないよ。本のおかげだもん」
だからこそ、ノンは素直に褒めました。
奴隷商の馬車から逃げ、森を彷徨いながらも食べられる植物や果物を探し、魔物との遭遇を回避する。
その全てがミアの的確な指示があったからこそできたとアゼラは言っていたようです。極限状態で冷静に物事を考え、適切な情報を引き出し、実行する。そのすごさをミアはわかっていないようでした。きっと、彼女にとってそれぐらいできて当たり前なのでしょう。
「ううん、ミアはすごいんだよ。グレイクさんだって斥候に向いてるって言ってたでしょ?」
「でも、私……ノン君みたいに戦えないよ」
ノンの言葉にミアは立ち止まって否定します。そして、そのまま全てを拒絶するように目を伏せてしまいました。
「……ミアは強いって何だと思う?」
「え?」
そんな彼女を見てノンはそう問いかけます。唐突に質問された彼女は驚いたように顔を上げ、すぐに目を逸らしました。
「え、っと……ノン君みたいにあんな大きな魔物を倒せる、とか」
「確かにわかりやすい強さだね。でも、僕は強さにも色々な種類があると思うんだ」
何を話すのか、ノンもわかっていません。でも、彼女には知っていて欲しかったのです。ミアだって十分、強い子なのだと。
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