第307話 影兎
地面に倒れる土蛙。そして、その頭上で動けない影兎。地中から攻撃されるとは思わなかったようで魔物たちは完全に不意を突かれ、痛みと驚きで動けないようです。
(うん、やっぱりドリルは便利だな)
王都で魔族と戦った時、咄嗟に作ったドリル。あれから何度か試しに使ってみましたが貫通力も高く、装甲が厚い相手や蛙のような打撃に耐性のある魔物に有効な攻撃方法です。また、今回のように地面を掘ったり、放たれた魔法にぶつけて強引に突破することも可能。これからノンの戦いに大いに役立ってくれるでしょう。
「……っ」
しかし、ダメージを与えましたが倒しきれなかったようで土蛙は青い血を流しながらもフラフラと立ち上がりました。影兎も本格的に応戦する気になったらしく、その小さな体の周囲に魔力を放出します。
「ごめんね」
ですが、土蛙はともかく、影兎の魔法はノンにとって何の意味も持ちません。相棒を守ろうとする兎に小さな声で謝りながらも魔法の無効化を使って術式を破壊しました。影兎は悔しそうに目を細めました。
「ノン君!」
影兎の魔法を魔法の無効化した隙に土蛙は土魔法を発動させて口の中に泥弾を生成しています。それに気づいたミアが大きな声でノンの名前を呼びました。
「ッ――」
今まさに泥弾が放たれる瞬間、ノンは白い包帯を伸ばして土蛙の口をぐるぐる巻きにします。口を塞がれた土蛙は何とか解こうと暴れますが間に合わず、口の中に作った泥弾が暴発してしまい、土蛙の体が一瞬だけ一回りほど膨れ上がりました。その拍子に腹の傷が大きく開き、大量の血が溢れ出ます。
「――……」
口からもくもくと煙が溢れる中、土蛙は白目を向きながら地面へと倒れ伏し、その体が塵へとなりました。そして、その場に大きな黄色い魔石が残ります。
「ッ!?」
まさか相棒が倒させるとは思わなかったのか、影兎は茫然とした様子でその魔石を見つめていました。ですが、すぐにノンたちの存在を思い出してその場から逃げ出します。目指すのは倒れた大木の影。それに逃げ込めば生き延びられる。そんな自信が影兎の背中から漏れています。そして、少量の魔力が放出されました。
「……逃がさないよ」
しかし、みすみす逃がすノンではありません。影兎の周りを囲むように包帯を伸ばして闇魔法――『影潜り』の術式を破壊しました。魔法を魔法の無効化された影兎は驚いたようにノンへと振り返り、自身へと迫る包帯を目にして――そのまま、貫かれてその体は塵となりました。
小さな黒い魔石が地面に落ちる音が森に響き、ノンは周囲を警戒します。魔力感知に反応はなし。とりあえず、他の魔物は近くにいないようなので警戒を解き、影兎の魔石を拾いました。
「ノン君!」
そんな彼へミアが駆け寄ってきます。その手には土蛙の魔石がありました。道すがら拾ってくれたようです。
「本当に、倒しちゃった……」
自分やノンの手の中にある魔石を見つめていたミアは茫然とした様子で言葉を零します。まさか見つけることさえできれば簡単な依頼だと思われていた影兎の討伐がここまで大変だとは思いませんでした。
「ミア、ありがとう。助かったよ」
「え、でも、私は何も……」
「そんなことない。影兎が凶暴な魔物の近くにいることも、あの蛙がマッドフロッグだってわかったのもミアのおかげだよ」
ノンの言葉に嘘はありません。きっと、ノンだけだったらもっと大変だったでしょう。特に土蛙が口の中で魔法を発動するという生態は知らなければ不意を突かれていたかもしれない情報でした。
「……うん!」
ミアもただのお世辞ではないとわかったのか、今度こそ嬉しそうに頷きました。
感想、レビュー、ブックマーク、高評価よろしくお願いします!




