第304話 共存
「……」
森の中にある小さな広場。ここは身を隠す場所はありませんが逆に他の魔物が潜む場所もない、と戦うにはそれなりに適しています。そして、ノンから少し離れた場所にミアが不安そうに立っていました。
「じゃあ、ミア。よろしくね」
「う、うん……頑張る」
ノンの言葉にミアは震える声で頷く。そして、森の奥から木々が倒れる音が響き渡った。
「そろそろ来るよ」
そう言いながら白い包帯を伸ばして準備を整えます。その次の瞬間、木々を吹き飛ばして二人の前にそれらは現れました。
「ッ……はは、そういうことか」
まず目に入ったのは見上げるほど巨大な体を持つ魔物。体はずんぐりとした四足歩行。後ろの足が発達しており、ぽっこりしたお腹が特徴的な――蛙。そう、彼らの前に現れたのは巨大な蛙の魔物でした。
そして、その頭部に当たり前のように立っている小さな黒い魔物。まるで、ノンたちを勝ち誇ったような顔で見下ろす兎――影兎。
「ミア、絵本は正しかったよ」
「え、じゃあ、やっぱり影兎はあの蛙の魔物に寄生して……」
「ううん、違う」
寄生とは寄生する側が一方的に利用する関係。ですが、あの二体はあまりに距離が近い。まるで、仲間のような関係。その関係を言葉にするなら――。
「――共存」
影兎は逃げ足の速い魔物です。しかし、それ以上に見つけるのが困難な魔物として有名。それは影に潜んで生きているからではなく、周囲の気配を探るのが上手く、外敵からいち早く逃げられるから、だとしたら?
「……?」
ノンとミアの前に現れた魔物たちですが、影兎は何故かノンを見て不思議そうに首を傾げます。それは予想外な人が目の前にいた仕草そのもの。
「ああ、そっか。魔力感知か」
ノンは外に魔力が漏れない特殊体質。そのおかげで魔力感知に引っかかりません。そして、今の影兎の様子。きっと、あの兎は魔力感知に優れており、ミアの微弱な魔力を感じ取ったのでしょう。そして、相手が子供だと気づき、獲物だと認識して蛙にそれを教えた。
しかし、追いついてみれば魔力感知に引っかからなかったノンがいた。だからこそ、影兎は不思議に思い、首を傾げたのです。
つまり、影兎が魔力感知で周囲の獲物の場所を相棒に教え、それを相棒が捕まえて食べる。そんな共存関係こそ、影兎の生態。寄生とは違う、持ちつ持たれつの結びつき。
(でも、これは好都合だ)
蛙と兎を見る前は大きな魔物を相手にしている間、ミアは小さな魔物に襲われる可能性があったため、どう戦うか悩んでいたのです。しかし、影兎は厄介な相手ではあるものの、戦うのに不向きな魔物。仮にミアを襲ったとしても殺されることはないでしょう。
「じゃあ、ミア。僕はどうすればいい?」
魔物たちの正体はだいたいわかった。ですが、あの蛙はこの森に生息していない魔物。ノンはあの蛙の名前や生態を知りません。だからこそ、彼は後ろに控えるミアへと声をかけました。
「……まずは蛙の種類を特定させたいから尻尾の形を見てきて」
「わかった!」
彼女の言葉にノンは白い包帯を蛙の背後に転がっている大木へと巻き付けます。しかし、すぐに縮めずにその状態を維持して蛙たちに向かって駆け出しました。
「――!」
まさか単身で突っ込んでくるとは思わなかったようで蛙は慌てた様子で右前足を大きく上げ、ノンに向かって振り下ろします。それを見たノンは巻き付けていた包帯を縮めて一気に前へ加速し、右前足を潜るように回避しました。
「――」
「おっと」
そのまま蛙の後ろへと回り込もうとしたところへ小さな紫色の弾が飛んできます。影兎の闇魔法でしょう。もちろん、そんな攻撃はノンには通用せず、もう片方の包帯で叩き落としました。
「ミア! 影兎の闇魔法には気を付けて! 死にはしないけどちょっと痛いかも!」
「う、うん!」
闇魔法のせいで蛙は態勢を立て直してしまい、ミアに声をかけながら一度、後ろに下がります。どうやら、蛙の相手をしながら影兎のちょっかいをやり過ごすしかないようでした。
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