第28話 精霊
前世の記憶を持ち、女神■■■の■愛を受けた男の子はすくすくと成長し、幸せに暮らしていました。
ですが、五歳になる前の日の出来事でした。複数の精霊に気に入られた彼は突然、精霊の国へ連れていかれてしまったのです。
精霊隠し。赤子や子供が精霊に気に入られると極稀に発生する現象。精霊は不思議な力を持つ存在であり、気に入った子供を精霊の国へ連れて行ってしまう性質を持っておりました。
しかし、気に入られた子供は次の日には精霊の国の王の力によって家に送り届けられます。また、精霊が迷惑をかけたお詫びにギフトを与えられる、そんな噂もありました。
だからこそ、精霊隠しにあった子供は幸せになれる。そう言い伝えられていたのです。
きっと、普通の子供でしたら今回の精霊隠しも何事もなく、解決していたでしょう。
でも、残念ながらその男の子は普通ではありませんでした。
そう、これこそ、彼が冒険に出るきっかけとなったのです。
精霊の国。初めて聞く単語にノンは少しの間、思考を放棄してしまいます。ここは自分の家から遠く離れた場所だということは何となく察したのです。
『いこいこー』
『あいさつー』
『おうさまー』
『やすむー?』
「……うん」
彼が正気に戻ったのは小さな光の球――精霊たちに声をかけられた頃でした。ここにいても仕方ないとノンは沈みかけた気持ちを切り替え、精霊の国へと足を踏み入れます。
(それにしても……)
精霊たちの後を歩きながら精霊の国を見渡す彼でしたが、どこか拍子抜けしてしまいます。国と言っていたのでてっきり、数えきれないほどの精霊がいると思いましたが目の前に浮かぶ精霊たち以外、誰も見当たりませんでした。
「他の精霊はどこにいるの?」
気分を紛らわせる意味も込めてノンは精霊たちへ質問します。彼らは移動を止め、彼の方へ近寄り、ピコピコと上下に揺れました。
『おうち!』
『きのなか!』
『いっぱい!』
『きになるー?』
どうやら、あの巨大な木の中にたくさんの精霊がいるようです。そもそも精霊の国は大木のことを指し、この場所は周辺の土地でしかないのでしょう。
「そうなんだー。どんな子たちがいるの?」
小さな子供をあやしている気分になったノンは再び歩き始めながら会話を続けます。それが嬉しかったのでしょうか。精霊たちは色々と教えてくれました。
あの大木には精霊の王様や他の精霊が住んでいること。
これまでにも何度か仲間――精霊が見える子供を連れてきたこと。
王様は子供を連れてきたら必ず挨拶しに来いと言っていること。
連れてきた子供たちは家に帰っていること。
子供たちが帰る時、ちょっとだけ寂しいこと。
(なるほど……精霊が見えることが条件となってここに連れてきちゃうんだ)
理由はわかりませんが精霊にはそんな性質があるようです。そして、精霊の王様は連れて来られた子供を家に帰している。それが本当であるならノンもその例外ではありません。
(ちょっとだけ気は楽になったかな)
この先に待ち受ける運命など知りもせず、ノンは精霊の王様が待つ大木を目指します。
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