第303話 諦め
「ミア、掴まって」
二つの魔力反応。魔力感知は魔力の大きさやその動きは補足できますが、ノンが覚えている魔力でなければその正体はわかりません。そのため、様子のおかしい魔力反応から逃げるためにミアの腰に包帯を伸ばして巻きつけた後、彼女の前でしゃがみます。
「え、えっと?」
「もしもの時のために両手は空けておきたいから背中に乗ってほしい。包帯で固定するから激しい動きをしても振り落とされないから安心して」
「安心してって言われても……」
ミアはその小さな背中を見つめ、覚悟を決めたのかゆっくりとノンの背中に抱き着きました。そして、更に白い包帯で彼女の体を背中に固定します。
「じゃあ、舌を噛まないように気を付けて」
「ぇ――」
ミアが何か言う前にノンは近くの木に包帯を巻きつけて一気に太い枝に跳び乗りました。背中に捕まっていた彼女からしてみれば一瞬で目に映る景色が変わったことでしょう。
「え? ええ?」
未だに状況を把握しきれていない彼女を無視して彼は二つの魔力反応から逃げます。魔力循環のおかげで向上した身体能力は白い包帯を存分に使用し、まるで忍者のように木から木へと移って高速で森の中を移動しました。
「……」
しかし、魔力感知に引っかかった魔力の持ち主を欺くため、わざと迂回したり、左右に激しく移動しても二つの魔力はノンたちを追いかけてきます。まるで、向こうもこちらの動きがわかっているかのように。
もちろん、ノンが本気を出せば二つの魔力からは余裕で逃げられるでしょう。しかし、今はミアがいます。本気で逃げれば奴隷生活によって弱ってしまった彼女の体に負担がかかり、怪我を負わせてしまう可能性がありました。
(……もしかして)
そして、何より問題となるのが魔力の持ち主がノンたちの動きを完璧に補足していること。きっと、ノンたちの何かを感じ取って追跡しているのでしょう。
「……」
この森はそこまで広くありません。ですが、向こうの速度を鑑みるに森を脱出するギリギリのところで追いつかれてしまいそうです。もし、そんな場所で接敵した場合、他の冒険者を巻き込んでしまう恐れがありました。
(特に大きい魔力はこの森に生息する魔物じゃない)
多分、他の場所から流れ着いた個体、もしくは以前、戦ったブラックオウルのような異常個体。少なくとも厄介な相手なのは間違いありません。
「ミア、ごめん。逃げきれない」
「え、そんな……」
きっと、ノンなら逃げられると思っていたのでしょう。その言葉に彼女は声を震わせました。
「戦いやすいところに移動して迎え撃つよ。そこでお願いが――」
「――私を置いていって」
今後の動きを話そうとしたノンをミアはそんな言葉で遮りました。予想外の発言に彼は思わず木の上で止まり、肩越しに彼女の顔を見ます。
「きっと、私がいるから逃げられないんだよね? なら、置いていっていいよ」
そう次いで言うミアの目には光が宿っていませんでした。何かも諦めてしまったような彼女にノンは――思わず吹き出してしまいます。
「……え?」
「もう、変なこと言わないでよ。大丈夫、任せて」
どうやら、少しだけミアは勘違いしているようです。確かに二つの魔力反応から逃げきれませんが勝てないとは一言も言っていません。
「でも……」
「じゃあ、手伝ってよ。ミアの力が必要なんだ」
「私、の?」
ノンの言葉に彼女は目を見開きました。そして、一分程度の作戦会議を終わらせた二人は戦いやすい場所に向かって移動を始めます。
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