第302話 反応
「え、なんで……」
凶暴な魔物を探す。そう提案されたミアは目を見開きました。当たり前です。今回の依頼はあくまで影兎の討伐。不確定な絵本の情報を鵜呑みにしてわざわざ討伐対象外の凶暴な魔物を探すのはあまりに危険だからです。
「確かに絵本の情報だけど可能性は高いと思うよ」
影兎の生態を考慮すれば信憑性が高い。ノンはそう判断し、ミアに提案したのです。
「でも……」
「大丈夫。探すだけだから」
ノンには広範囲に及ぶ魔力感知があります。よほどのことがなければ魔物に襲われる前に感知して距離を取ることができるでしょう。
「それなら」
魔力感知の話をするとミアは渋々といった様子で頷いてくれました。きっと、その魔力感知のおかげで自分たちを見つけてくれたと聞いていたからでしょう。
それから二人は簡単な打ち合わせした後、森の中へと入りました。
ノンたちが入った森はそこまで広くなく、強い魔物も生息していない比較的安全でした。そんな森だからこそ、影兎も生きて暮らしている。冒険者ギルドはそう考えていたため、依頼のランクは鉄級、とそこまで高くありません。
「でも、凶暴な魔物の傍にいるって生態が本当なら一気に難易度は跳ね上がるよね」
森の中を歩きながらノンは隣を歩くミアに話しかけます。ノンの冒険者ランクは銅級。影兎を見つけたり、追跡するのは非常に困難ですが魔物の強さ的には低級に分類されるため、非常に旨味のない依頼でした。
「それなら放っておけばいいのに……どうしてずっと依頼が残ったままなの?」
「うーん、放っておくのも問題があるんだよ」
森に入った直後はガチガチに緊張していたミアですが、今は落ち着いたらしく少しうんざりした様子でノンに質問しました。それに対し、彼は苦笑を浮かべてしまいます。
魔物は長い間、生存し続けると進化、という現象を起こします。例えば、ゴブリン。通常はそこまで強くない低級の魔物ですが、運よく生き延び続けるとホブゴブリンへと進化。そして、身体能力の向上や特殊なスキルが発現することがあります。
もちろん、空気中を漂う魔力の濃さによってホブゴブリンそのものが出現することもありますが、進化個体の方がより強力な魔物へとなると言われていました。
「だから、弱いシャドーラビットでも放置し続けるのは危険ってこと」
「じゃあ、私たちが探してる個体も……」
「影兎が進化したらもう少し目撃情報が出てもおかしくないと思うんだよね。だから、頭の片隅に入れておくだけに留めておこう」
そう言いながらノンの頭に思い浮かんだのはシスイールのことでした。あの鰻もフォスイールから成長していたので影兎も進化していないとは言い切れません。ミアを守りながら逃げる自信はありますが用心しておくに越したことはないでしょう。
「ん?」
そのおかげでしょうか。魔力感知に意識を向けた彼は自分たちに向かって高速で移動する大きな反応ととても小さな反応を感じ取りました。このままだと数分後には茂みの向こうからこんにちはしそうです。
「ミア、大きな魔力反応と小さな魔力反応が近づいてきてる。ここを離れよう」
「う、うん」
いつもの穏やかな雰囲気から少しだけ凛とした表情になったノンに戸惑いながらもミアは彼の指示通り、進路を変えて二つの魔力反応から距離を取ります。
「……」
しかし、ノンたちが進路を変えた矢先、向こうもそれを追うように方向を変えました。どうやら、少々面倒なことになりそうです。
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