第299話 自答
問題は三つ。危ういミアの精神を回復させる方法。目的地に行くのが非常に困難であること。人間と獣人の間に亀裂が入る可能性があること。
これらの問題をどうにかしなればならず、アレッサとグレイクはどこか諦めている節がありました。
ミアのことをノンが諦めてしまった時、少しでも罪悪感を軽くするために彼女はミアを見捨てると断言――自分を悪者にしました。
グレイクは獣人の国へ行くのがどれだけ難しいか丁寧に説明し、ノンが背負った重荷を代わりに受け継ぐと言ってくれました。
「……」
そこまで整理したところで自分が俯いていることに気づきます。このままでは駄目だと顔を上げるといつの間にか雲は消え、満点の星空が彼を見下ろしていました。前世では夜になっても街の明かりが消えることはなく、これほどまでに綺麗な星空を見ることはありません。
ミアのこと、彼らの故郷に行くこと、獣人との関係。それに加え、ノン自身の夢――家族との再会。色々なことが頭の中でぐるぐると巡り、いつしか吐き気を覚え始めてしまいます。
(どうしよう)
自分はどうするべきか。何が正解なのか。何が。何が。何が。何が――自分のしたいことなのだろう。
「ッ――」
その時、ノンは目を見開いて自分の手を見つめました。前世に比べ、まだ小さな手。普段は白い包帯で保護しているため、魔物を殴りつけても傷つかず、とても綺麗な状態です。
ですが、今日、大粒の涙を流す彼女を慰めるため、その手を取りましたが今になって折れてしまいそうなほど細く、傷だらけだったことを思い出しました。
「……」
かつて、レニックスの街でオークキングの軍勢が迫っていた時、諦めかけていたアレッサに自分はなんと言っただろう。諦めるな、そう言ったはずだ。
「すぅ……はぁ……」
ああ、そうだ、とノンは不甲斐ない自分に思わず苦笑を浮かべてしまいました。きっと、アゼラたちの今後が自分の選択一つで決まってしまう重圧に負け、心が弱っていたのでしょう。
そもそも、こんなに悩んでいる時点でノンのしたいことは決まっています。
アゼラたちを助けたい。
その気持ちがこれほど強くなければグレイクに全てを押し付けてしまっていたはずです。
でも、ノンはグレイクの提案を一度、持ち帰った。その場で決断せずに考える時間を貰った。それがすでに答えなのです。
「ははっ」
じゃあ、やることは決まっていました。三つの問題を全て解決すればいい。問題を一つ一つ精査し、解決できるか必死に考える。幸い、必要な最低限の情報はすでに揃っています。後はノンの閃き次第でした。
まず、最も簡単な――人間と獣人の関係について。この問題の解決方法はすぐに思いつきました。上手くいく保証はありませんが悪いことにはならないでしょう。少なくとも試す価値はあります。
(次は移動か)
ケレスカ大陸に行く方法。こればっかりは一度、港町に行って状況を確かめなければならないでしょう。しかし、あまり使いたくない方法ですがこちらもノンにはとっておきの秘策があります。最終手段がある時点で港町に行くべきでしょう。
そして、最後――ミアのこと。やはり、これが最も難しい問題でした。ノンも、アレッサも、グレイクも、アゼラも精神的に強い人なのでミアのように精神が弱り切ったことがありません。そのため、対処法を思いつかないのです。こんな時、一体、どうすればいいのか。前世で得た知識も今ばっかりは役に――。
「……そっか」
――そう、前世で得た知識は何も役に立ちません。そもそもの話、前世でも精神病に対する完璧な治療法というものはありませんでした。事故に遭ったばかりの頃、精神的に追い詰められそうになっていた彼に担当医がそう言っていたのを思い出したのです。
つまり、ミアの問題に対する最適解は最初から存在しない。それが答えです。
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