第295話 不安
もう一部屋、確保するのに宿屋の店主に少しだけ怪しまれましたが礼儀正しく、いつの間にか気に入られていたノンのおかげで無事に手続きを終え、四人は新たに取った部屋に入りました。
「おー」
「わぁ」
宿を利用するのは初めてのアゼラたちはどこか目をキラキラさせて部屋を見渡しました。ここは女子部屋にする予定ですので実際に使うミアはベッドに手を乗せてその柔らかさを確認しています。
ノンとアレッサが二人だけの時は一部屋でしたが、さすがに大人のグレイクとアレッサが一緒の部屋で寝泊まりするわけにはいきません。彼らを引き離すことになりますがアゼラたちもそこまで抵抗感はなかったため、男と女で分かれることにしたのです。
「アゼラ、オレたちの荷物を置きに行くぞ。ノンも来い」
「おう!」
「あ、はーい……ん?」
「あっ……えっと……」
グレイクとアゼラが部屋を出てノンもそれに続こうとした時、服が引っ張られて足を止めます。振り返るとミアが不安そうな顔をして彼の服を摘まんでいました。
「……グレイクさんたちは先に行っててください。僕は師匠が戻ってくるまでミアと一緒にいます」
「ああ、わかった」
ノンはミアの指を振り払うことなく、グレイクにそう伝えます。グレイクも断る理由はないため、アゼラを連れて部屋を後にしました。
「やっぱり、一人になるのは怖いよね。気づかなくてごめん」
「あ、そ、そんなんじゃ……」
「とりあえず、もう布を取っても大丈夫だよ」
「……うん」
その言葉にミアは素直に体を隠していた布を床に落とします。しかし、相当不安なのでしょう。尻尾は縮こまり、垂れた耳も緊張したようにピクピクと動いていました。
「じゃあ、部屋の使い方を教えるね。広さは多少違うみたいだけど家具とかは同じだから」
そんな彼女に彼は笑顔を浮かべて部屋の探検を始めます。綺麗好きのアレッサが選んだ宿屋。多少、値段は張りますがその分、サービスもグレードが上がります。なにより、この宿屋は珍しく、部屋にシャワールームが付いていました。
「ここがトイレ。この魔石に魔力を注げば水が流れるよ。魔道具に魔力は注いだことある?」
「あ、はい……何度か」
『獣人なのでそこまで魔力量は多くないけど』とミアは呟きながら試しにトイレの横に取り付けられている魔石に魔力を注ぎます。すると、ばしゃばしゃと音を立てながらトイレに水が流れ始めました。
「うん、問題なく使えそうだね。シャワーも自分の魔力を使うんだけどトイレよりも必要量が多いから大変そうなら師匠を頼った方がいいかも」
「……」
「ミア?」
シャワーの使い方を教えていた彼ですがミアからの返事がなかったため、彼女の方を見ます。どこか浮かない表情をしており、顔色も悪いように見えました。
「……少し休もうか」
気を紛らわせるために部屋の説明をしていましたがあまり効果がなかったため、ノンはミアの手を取って部屋に置かれているベッドに近づき、彼女を座らせました。
「具合、悪い? 師匠の荷物に薬があるから取りに行こうか?」
「ううん、大丈夫……そういうのじゃないから」
ノンの質問に力なく笑うミア。しかし、すぐに思いつめたような顔になり、口をパクパクと動かしました。何か言いたいのに言葉が出てこないようです。
「大丈夫。ゆっくり話して」
「……私とノン君がここに二人きりでいるのってわざとだよね?」
数秒ほどの時間を要して彼女の口から出たのはそんな確信めいた言葉でした。
感想、レビュー、ブックマーク、高評価よろしくお願いします!




