第0話 心願
――ご、めん……なさい……。
誰かの謝る声が聞こえる。それはとても苦しそうで、悲しそうで、辛そうで。聞いているこちらの胸が痛くなるほどであった。
――……どうか。
しかし、それからすぐ祈るような声に変わる。その声は震えており、涙を堪えているようだった。
――どうか……この子に幸せが訪れますように。
だが、震えていたはずの祈りの言葉は神秘的な何かが込められていた。
きっと、この声の主は僕とは違い、とても高貴な地位を持つ、もしくは神様のような超越的存在だろう。あり得ないはずなのに何となくそう思った。
でも、それ以上にどうしてこの声の主は僕のためにこれほどまで真剣に祈ってくれるのか気になった。
――あの子の、行く末を見守り、たかった……。
それを最後に声は聞こえなくなった。誰だったのだろう。もう一度、その声を聞きたかったがいくら待っても続きは聞こえない。
でも、わかることが一つ。きっと、僕がこうやって自我を保っていられるのは声の主が手を貸してくれたからだ。この人がいなければ僕は僕ではなくなっていた。
だから、僕はどんなことがあっても忘れてはならない。忘れたくない。命の恩人を忘れる恩知らずにはなりたくない。
ありがとう、ございます。
心の中でその声の主に対して感謝の言葉を述べる。届くかな? 届いてほしいな。
――スキルを取得しました。
そんな機械染みた声を認識する前に僕の意識は沈んでいった。
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