第292話 適性
「うわぁ……すっげぇ」
「ノン、くん……」
アゼラたちが目を覚まし、朝食を終えた後、ノンは昨晩の約束を守るため、面白いもの――跳躍を披露しました。まさか包帯を使って空を跳び回るとは思わなかったようで彼らは言葉を失って空を見上げています。
「お前じゃなくてもできるんだな」
「多分、魔力循環さえできれば誰でもいけるわ」
「その魔力循環が問題なんだがな」
そんな会話をする保護者組ですが、ノンが手を振りながら笑顔を浮かべました。王都で魔族と戦うまでは跳躍に集中していなければすぐにバランスを崩しそうになっていましたがあの戦いは彼を格段に成長させるものだったようです。
「やっぱ、ノンってすげぇんだな」
「そりゃそうよ。六歳で冒険者になっただけじゃなくてすでに銅級だもの」
「どうきゅう? それってすげぇのか?」
「ええ、すげぇのよ」
「へぇ、やっぱすげぇんだ」
きっと、アゼラはアレッサの説明を理解していないでしょう。ですが、空を跳び回る子供が普通ではないことぐらいわかります。
「え、銅級!?」
「あら、ミアは知ってるのね」
「あ、えっと……暇な時に適当な本を読んでるので」
しかし、ミアは冒険者ギルドの制度を知っていたようで目を見開いて驚きました。この世界で本――というより、紙は前世よりも貴重なものです。その分、本も一般家庭には普及されておらず、本を読むには図書館などに行かなければなりません。
「じゃあ、ミアたちの故郷はそれなりに大きい街なの?」
そして、図書館は限られた街にしかないため、アレッサがそう思うのも無理はありませんでした。ですが、ミアは少し困ったような表情を浮かべます。
「小さな村ですよ。ただ、村長は愛読家で家にたくさん本があるんです。よくお邪魔して本を借りてました」
「その中に冒険者の本があったのね。勉強熱心で感心感心」
かつて魔法学校に通っていたアレッサは勉強の大切さを理解しているため、幼いながらも勉強をしているミアを褒めました。
「おう、ミアは物知りなんだ! ここまで生きてられたのもこいつのおかげなんだ!」
「それはどういうこと?」
その時、跳躍を終えたノンが地面に降り立ちながらアゼラに問いかけました。遠くからミアたちが会話しているのを見て戻ってきたようです。
「食べられる草とか実とか探しながらなんとか生き延びてたの。でも、ちょっと油断してクレイウルフに見つかっちゃって……」
「で、でも! 何日も経っても魔物に会わなかったのはミアが頑張ってくれたおかげなんだよ!」
ミアが申し訳なさそうに説明しますがそれを庇うようにアゼラが声を張り上げます。どうやら、ミアは本で読んだ知識を駆使して食べ物を探したり、魔物との遭遇を回避していたようでした。いつ死ぬかわからない状況の中、冷静に物事を考え、最適解を導き出すのは大人であっても難しいこと。それをたった七歳の子供がやったとなるとミアの判断力は想像以上かもしれません。
「……ミアは斥候に向いているかもな」
その話を聞いていたグレイクはミアを見ながら言葉を零しました。
斥候。隠れ潜みながら地形や敵の情報を探る役割です。少ない情報から状況を把握し、答えを導き、味方に有利な状況を作る。確かにミアの知識や判断力があれば優秀な斥候になれるかもしれません。
「斥候、ですか?」
「ああ。特にミアは犬族だ。視覚だけじゃなく、嗅覚でも情報を得られる」
「……」
その言葉に彼女が何を考えたか、ノンにはわかりません。ですが、少しだけ彼女の目が光ったような気がしました。
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