第290話 優しさ
仲間になろうと手を差し伸べるノン。それをグレイクは驚いた表情を浮かべ、見つめていました。
「……くっ、はは」
「あ、あれ?」
しかし、彼はその手を取ることもなく、ただ小さく笑い始めます。まさかの反応にノンは少しだけ不安そうに首を傾げてしまいました。
「いや、悪い……本当に、お前は不思議な子供だ」
「そう、ですかね?」
「ああ……随分、愉快な弟子を持ったな、アレッサ」
「ぎくっ」
グレイクがここにはいないはずの魔法使いの名前を呼ぶと彼女のテントから物音が――いえ、わざとらしい声が聞こえてきます。そして、数秒もしない間に完璧に身支度を終えたアレッサがテントから出てきました。
「あ、師匠。おはようございます」
「うん、おはよう。こんなタイミングでも朝の挨拶を欠かさないのは素晴らしいわ」
「身支度しながら盗み聞きするお前とは大違いだな」
「うっ……こんな野営地のど真ん中で会話する方が悪いのよ!」
『もう!』とアレッサは逆切れした後、ノンの後ろに立ちました。もちろん、ノンはまだグレイクに手を差し伸べたままです。
「それで、その手を取るの? 取らないの?」
「……そう、だな」
アレッサの問いに彼は眩しそうにノンを見上げ、静かに首を横に振りました。それはまさに拒絶のサイン。それを見たノンはピクリと差し出した右手を震わせます。
「理由を、聞いてもいいでしょうか?」
「……正直、お前たちと旅をするのは楽しそうだ」
「なら――」
「――だが、お前は自分の家族を探すよりあいつを探す方を優先するだろう?」
「ッ――」
グレイクの指摘に彼は心臓を鷲掴みにされた感覚を覚えました。まさにその通りだったからです。
きっと、ノンは無意識でグレイクの方を優先してしまう。家族がいそうな街よりも獣人が行き交う街へ。獣人の奴隷を持つ貴族の情報を集め、遠巻きにグレイクの探し人を調査する。ほんの少し思考を巡らせただけで自分がやってしまいそうなことが思い浮かんでしまいました。
「それは駄目だ。ただでさえ、アゼラたちを家に帰すという寄り道をするんだ。オレのことまで抱える必要はない」
「ち、違うんです! 抱えるとかじゃなくて!」
「ああ、そうだな。言い方が悪かった。お前は優しいから自分よりも他人を優先してしまう。それがオレは嫌なんだ」
グレイクは立ち上がり、ノンの頭に大きな手を乗せます。それが我儘を言う子供を窘める父親のようでノンは何も言えなくなってしまいました。
「お前はまだ子供だ。アゼラたちと同じように親の愛情を注がれてすくすくと育つべきなんだ。そんなお前の邪魔をしたくない。わかってくれるか?」
「……邪魔なんかじゃないです」
「大丈夫。わかっている。わかっているから……オレはお前たちの仲間になれない」
ノンは心優しい少年です。だからこそ、自分の幸せよりも周囲にいる人の幸せを優先してしまう。アゼラたちの一件がまさにそうです。彼らをおうちに帰すまでノンの家族探しの旅は一時的に中断。できても立ち寄った街で情報を集めるだけです。迷宮都市に行った方が遥かに効率的なのは間違いありません。
「だが、知っていて欲しい。お前の言葉で、お前の行動で……オレがどれだけ救われたか。もう、それだけで十分だ」
「……わかり、ました」
こうして、グレイクの過去を知ったノンですが、残念ながら彼を仲間に招き入れることはできませんでした。
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