第288話 復讐
「何かの冗談かと思った。疲労のせいで幻覚を見たんだと自分に言い聞かせた」
当時のことを思い出しているのでしょう。そう語るグレイクの顔は青く、今にも倒れてしまいそうでした。
「大物をその場に置いて村に走った。走って……本当に村が燃えていることを理解した」
「……何が、原因だったんですか?」
「盗賊……いや、獣人攫いだ」
「獣人攫い?」
「獣人は人間に比べて頑丈で力も強い。だから、昔は獣人を攫って奴隷にする人間がいた」
グレイクの説明にノンは思わず奥歯を噛み締めます。思い出すのは王都で出会ったノエル。魔族を王都に転移させるために攫われた女の子です。あの時はノンが偶然にも近くにいたおかげで救うことができました。
「そして、珍しい獣人がいればいくつかのグループが集まって集落を襲うことなんてこともある。それがオレの村だ」
「珍しい、獣人……」
「オレやアゼラたちは一般的な獣人だ……だが、時々、両親とは違う耳を持つ子供が生まれる。それがあいつだった。魔法が苦手な獣人の中で魔法適性の高い種族だったから余計、な」
「じゃあ、村が襲われたのは」
「あいつが狙いだった。唯一、生き残っていた村長に話を聞いてわかった……その後すぐ、村長も息を引き取った」
目を伏せた彼は奥歯を噛み締めていました。もう少し早く村に到着していれば救えたかもしれない命。当時の彼はどれほど悔しかったでしょう。
「結局、燃える村の中にいられなくてオレは避難するしかなかった。皆を供養することすらできず、大物を置いた場所でただそれを見ていた」
「……」
「一睡もできず、隣にある大物が虚しかった。こんな物のためにオレは皆と一緒に死ねなかった。あいつの笑顔も見れなくなった。何もかも……失ったんだ」
「……それから、どうしたんですか?」
グレイクが言葉を区切ったタイミングでノンは問いかけます。しかし、彼の壮絶な過去に緊張してしまったのか、その声は自分でも驚くほど掠れていました。
「灰になった村の皆を埋葬して、当てもなくただ歩いた。幸い、食料は大物のおかげでそれなりに食い繋げられた。そして、幸か不幸か他の集落に辿り着いたんだ」
そう言って彼はまた焚火に枝を投げ込みます。村を焼いた炎。今、目の前で燃えるそれをグレイクはどんな気持ちで見つめているのでしょう。
「それからはあまり覚えていない。あいつを攫った奴らに復讐するために力を付けて、冒険者になって、奴らのアジトを突き止めて……全員、殺した。弓で、爪で、牙で全員、ズタズタに引き裂いた。泣いて謝っても止めなかった。わざと死なない程度の傷を負わせて苦しめた」
故郷の敵討ち。それを成し遂げたはずなのに彼の顔はどこか後悔に満ちていました。
「でも、あいつはいなかった。当たり前だ。全てを失ってから数年も経っている。すでにどこか売られていた。残ったのは後悔とやるせなさだけだった」
「その子は今も?」
「ああ、見つかっていない……オレは、あいつを探してるんだ。ずっと」
十年以上前に奴隷となった獣人。その消息を辿るのは果たしてどれほどの困難なことなのでしょうか。少なくともノンの年齢以上の歳月をかけているのに見つかっていないことから途方もないことなのは間違いありません。
「時々、考える。本当にあいつはまだ生きているのかって」
「それはっ」
どこか諦めたような声音で呟くグレイクにノンは珍しく、声を荒げて立ち上がりました。
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