第287話 グレイク
グレイクは人間の国があるハーニンド大陸から見て南にあるケレスカ大陸――その中にある獣人の国、ガルモ国の出身です。しかし、ガルモ国の中でも北にある辺鄙な村で生まれました。
「本当に小さな村だった。毎日、生きていくのがやっとなぐらい。子供もオレともう一人しかいなかった」
「……」
どこか懐かしそうに話すグレイクにノンは何も言えませんでした。まるで、失ってしまった物に手を伸ばすような目。それは前世で家族を亡くした自分によく似ていました。
「子供でも働かなきゃ色々回らなかった。でも、当時のオレたちにとって当たり前だったし、あいつも笑って楽しそうに作物の世話をしていた」
「……その子と仲がよかったんですね」
「ああ、唯一の友達だった。でも、オレが八歳になった時、突然、スキルに目覚めた……いや、無意識に使ったんだ」
グレイクのスキルは『弓矢作成』。魔力があればどんな弓でも矢でも作ることができるスキルです。今回の依頼で存分にその強さを見たノンはそんな幼少期から使っていたと聞き、驚いてしまいました。
「それからオレは基本的に狩り。あいつは村で雑務をするようになった。でも、村で顔を合わせたら必ず話したし、たまにお互いの家に遊びに行って食事を共にした」
きっと、彼にとって輝かしい思い出なのでしょう。空を見上げて目を細めました。
「……あれは、そうだな。あいつの十歳の誕生日前日だった」
しかし、次の瞬間、彼の声が別人のように低くなります。そのあまりの変わりようにノンは思わず息を呑んでしまいました。
「その年は例年に比べて不作だった。確か、大雨が続いて作物が上手く育たなかった。森もその影響を受けて動物の数は少なかった、ような気がする」
グレイクが何歳なのかわかりませんがおそらく二十歳は超えているでしょう。そんな彼と歳の近い子供となれば少なくとも十年は経っていそうです。多少、記憶が曖昧になっているのかもしれません。
もしくはそんな些細なことを忘れてしまうほどの出来事があったか。
「あいつの誕生日もその影響を受けてな。毎年、ささやかなお祝いをしていたが、それができなくなった。それを聞いてあいつ、悲しそうにしながら『仕方ない』って笑ったんだ」
子供にとって誕生日は特別なものです。前世でも今世でもノンはたくさんお祝いしてもらいました。そんな特別な日にお祝いしてもらえない。それは事情があったとしてもその子にとってとてもショックなことだったでしょう。
「……それが、悔しくてオレは初めて一人で森に入ったんだ」
「一人で森に?」
「ああ、獣人の身体能力やスキルがあったとしても当時のオレはまだ子供だった。だから、狩りに行く時は大人と一緒だったんだ」
そう語る彼の拳が硬く握りしめられました。おそらく、無意識に力が入ってしまったのでしょう。
「悪いことだとわかっていた。危険なことだって知っていた。でも、どうしてもあいつに笑って欲しくて必死に獲物を探したんだ」
「……」
「幸い、その年一番の大物を一人で倒せた。あいつの誕生日だけじゃない。村の皆がしばらく困らないほどの大物だ」
きっと、それはとても喜ばしい話なのでしょう。友達のために一人で狩りに行って大物を倒した。それは当時のグレイクにとってどれだけ嬉しかったことでしょう。
友達の笑顔が見られる。村の皆も喜ぶ。自分自身の成長を実感する。
「だが、大物すぎて子供のオレには満足に運べなかった。それでも初めての大物だったから自分の手で運びたかったから何時間も引きずって村に向かったんだ」
そう語る彼の声はどこか震えているように聞こえ、ノンは少しだけ身構えました。
「すっかり遅くなって日も沈んだ頃、やっと村に着いたオレは……真っ赤に燃える村を見た」
そして、彼の嫌な予感が当たったようにグレイクは低い声で残酷な現実を口にしたのです。
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