第286話 尊敬
「そう、なのか?」
ノンの言葉にグレイクは意外そうな表情を浮かべました。当たり前です。アゼラたちと接する彼はまさに大人顔負けの気遣いっぷり。だからこそ、彼もノンを異常だと思ったのでしょう。
「はい、そうなんです」
グレイクに苦笑を浮かべてみせるノン。何を話すのか、自分でもわかっていません。でも、伝えたい言葉は自然と出てきそうだと何となく感じていました。
「ただ、あの子たちにできることはないかなって……少しでも楽になってほしいとか。楽しい思いをしてほしいなって」
「……」
「そう考えたら自然と……ううん、違う。ごめんなさい」
感じるままに言葉を口にするノンですが、やはり心のどこかで誤魔化そうとする自分がいて慌ててグレイクに頭を下げます。
「僕、重い病気だったんです」
「ッ……今は大丈夫なのか?」
「はい、色々あって重い病気だって思われただけなので!」
確かに今世では魔漏症候群だと勘違いされて過保護に育てられました。もちろん、前世の話はしません。しかし、これから話すことを全て魔漏症候群のせいにしてしまえ、というちょっと強引な作戦でした。
「それで……調子が悪い時にたくさん食べたら気持ち悪くなったり、自分が病気だって知って不安になったことがあったんです」
「……実体験だったってことか」
「はい、そうなんです」
嘘ではない。でも、本当のことも言っていない。そんな中途半端なことしか言えず、ノンは少しだけ申し訳なくなってしまいます。ですが、作戦が功を成したようでグレイクはどこか納得したような表情を浮かべていました。
「……それでもお前のその心は、尊敬に値する」
「え?」
そして、グレイクからの称賛にノンは思わず目を見開いてしまいます。そんな彼を無視してグレイクは立ち上がり、ノンの前で片膝を付きました。
「お前は自分のことを後回しにしてあの子たちの願いを叶えたいと考えた。境遇は違うかもしれないが親元を離れているのはお前だって同じなのに」
「……」
「それだけじゃない。お前の行動が自己犠牲ではないことがやっとわかった。心の底からあの子たちを助けたいと思って動いている。そんな人間、オレは知らない」
「グレイク、さん……」
「だが、それと同時に……そんなお前だからこそ、助けになりたいと考える奴もいる。それだけは覚えていて欲しい」
そう言って彼はその大きな手をノンの頭に乗せます。がっしりとしたそれはどこか太陽のように笑う今世の父親を彷彿とさせ、心がポカポカと温かくなるのを感じました。
「……グレイクさんはどうして旅をしてるんですか?」
だからでしょうか。ノンは気づけばグレイクにそう問いかけていました。もっと彼の人となりを知り、自分のことを知ってもらってから聞こうと思っていた彼の願い。
「……」
「あ、すみません……」
まさかそんなことを聞かれると思っていなかったのか、彼はとても驚いた様子でノンを見つめます。それを見てノンも我に返り、すぐに謝りました。グレイクは人付き合いを嫌っています。きっと、自分のことを聞かれることも嫌でしょう。
「……そんな面白い話じゃないぞ」
しかし、ノンの予想とは裏腹に彼は目を伏せて近くに置いてあった木の枝を焚火に投げ込みます。だからでしょうか、少しだけ焚火の勢いが強くなったような気がしました。
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