第285話 精神
「どうして、お前はそれほどまでに気遣える?」
黙り込んでしまったノンにグレイクはもう一度、同じ質問をしました。下手に誤魔化すことを許さない。そんな意志を込められた視線と共に。
「そう、ですね」
その目に宿った熱にノンは少しだけ戸惑いながらも言葉を探します。この質問には慎重に対応しなければならないから。
確かにノンはまだ六歳。本当であればアゼラやミアと同じように精神が不安定な時期であり、気遣いなどできるとは思えません。
しかし、彼はただの子供ではなかった。地球の日本で育ったほんの少しだけ不幸だった少年です。そのため、小さな子供の体の中にちょっとだけ成熟した精神が詰め込まれているだけ。
また、前世で彼が亡くなったのは十四歳――いえ、最期の一年は眠りっぱなしだったため、実質精神年齢は十三歳でしょう。そのため、今世の年齢を合わせてそろそろ二十歳を超えます。
ですが、ノン自身、自分の精神年齢が二十歳に達しているとは考えていませんでした。精神の成長は周囲の環境に大きく影響するからです。
赤ん坊から幼少期まで両親に大切に育てられ、幼稚園や小学校で他人と過ごすことを知る。そして、多感な時期である中学、高校、大学で様々なことを経験して精神が磨かれ、それを武器に社会人の一員となって社会の荒波に立ち向かう。それが人生というものです。
そんな普通の人生をノンは不慮の事故により、送ることができませんでした。小学校も途中から通えなくなり、中学校にも行けずに病室でその命を散らせた少年。精神を磨くにはあまりにも経験が足りませんでした。
また転生してからも幼少期に親元を離れてしまい、彼の人生は普通とはかけ離れてしまいます。見るもの、触れるものが全て未知であり、彼の精神はまた一から磨かれ始めたところ。そのため、ノン自身、精神的に成長しているとは思えませんでした。きっと、今世で前世よりも年を取っていくにつれ、止まってしまった彼の精神も再び成長し始めることでしょう。
しかし、精神はどうであれ、彼は前世で順風満帆とは言えない人生を送り、様々な経験をしました。
例えば、アゼラ。彼の食べ過ぎを注意できたのは前世で体の調子がいい時にご飯の量をほんの少しだけ多くしてもらった時、食べたすぐに体が拒絶反応を起こして吐いてしまったことがありました。その経験があったからこそ、衰弱している時に食べすぎると体に悪いことを知っていたのです。
例えば、ミア。人は感情に左右される生き物。それは前世でも、獣人でも変わりません。辛い時、励ますだけで精神的に追い詰められてしまうことをノンはその身を持って知っていました。そんな時、幼馴染の女の子はいつだって笑って傍にいて気を紛らわせてくれたのです。現実逃避かもしれない。ただ見て見ぬ振りしているだけかもしれない。でも、あの時間はノンにとって必要なものだったのは間違いありません。
ですが、それを馬鹿正直に話すつもりはありませんでした。転生がどれだけ異常な現象なのか、彼はわかっているつもりです。きっと、この先、両親にも、師匠であるアレッサにも言うことはないでしょう。
「……」
でも、何かに縋るような目を向けてくるグレイクを見て、ノンはどうしても口を動かせませんでした。その目に宿る何かはどこか――今世で鏡に映った時に見る自分の目のようで。
「……気遣いが上手いわけじゃないんです」
気づけばノンはそんな言葉を口にしていました。
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