第284話 気遣い
「んー……」
早朝、いつもの時間に起きたノンは白いドームを出て背筋を伸ばします。昨日は色々なことがありましたが魔力操作の鍛錬をしている間、思考がすっきりしたような気がしました。
(うん、大丈夫)
もう一度、頷いて前を見据えます。そして、こちらを見つめるグレイクと目が合いました。ノンたちに獣人だと教えてからフードを外している彼は今の今まで見張りをしてくれていたようです。
「おはようございます、グレイクさん」
「ああ、おはよう」
アゼラたちをおうちに帰すまで一緒に行動することになった彼ですが正式に仲間になったわけではありません。しかし、理由はあるかもしれませんが人付き合いを毛嫌いしている彼が旅に同行してくれると言ってくれたことは事実。それがどこか自分を認めてくれたような気がしました。
「朝食の準備をしますので少しかもしれませんが休んでください」
「いや、大丈夫だ」
ノンの言葉に首を振ってグレイクは焚火に枝を投げ入れます。彼の靴は僅かに新しい土が付いているため、昨日の朝に見た鍛錬を行った後なのかもしれません。
「わかりました。じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
この数日でそれがグレイクなりの気遣いだとわかったノンは気にすることなく、朝食の準備を始めます。いつもなら顔を洗うところですがこの近くに水場はないのでアレッサが起きるまでの我慢。飲料水はマジックバックの中に保存しているので料理に支障はありません。
「……昨日、どうだった?」
アゼラたちを起こさないように音を出さないように気を付けながら調理していると不意にグレイクが問いかけてきます。何が、とは言いません。きっと、ミアの様子を聞いているのでしょう。
「一応、眠ることはできたみたいです。でも、あの子から事情を聞くのはちょっと可哀そうです」
彼女たちをおうちに帰すと決めたノンたちですが、まだ詳しい事情を聞いていませんでした。昨日は嫌なことを少しでも忘れさせてガス抜きをしようと考えたからです。もし、ミアに話を聞いていればトラウマが再起されて寝る前に話しただけで眠ることはできなかったでしょう。
「なら、アゼラから聞くか。ただ、ちゃんと話せるか」
「あはは……」
アゼラはメンタルが強く、すっかり元気になったようだったため、話を聞いてもそこまで精神的ダメージはないかもしれません。しかし、彼は感情の起伏が激しく、主観で話すタイプなのでわざとではないでしょうが事実を捻じ曲げて話してしまう可能性がありました。それをグレイクは危惧しているようです。
「まぁ、とりあえず、アゼラに話を聞いてみましょう」
「……どうして、そこまで気遣えるんだ?」
「え?」
アゼラたちの話からいきなりノンの話に飛んだため、彼は調理を進めていた手を止めて顔を上げました。そして、ジッとノンを見つめるグレイクと目が合います。
この数日、彼は何度もノンに質問しました。そのどれもがノンを試すような、ノンの考えを知ろうとするものばかり。それこそ、フードを外して素顔を晒したグレイクはどこか――救いを求めるような目をしていました。もしかしたらこれまでも彼は同じような顔でノンに質問していたのかもしれません。
「お前は、幼い子供だ。それなのに昨日はアゼラの気を引いて食べすぎを止めたり、ミアのケアを引き受けたり……あまりに、気遣いができすぎる」
「……」
グレイクの質問にノンはただ無言で思考を巡らせます。どう答えるべきか。どこまで答えるべきか。
そんな静寂を破るように焚火の中で枝が割れる音が清廉な森の中に響き渡りました。
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