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第26話 運命

「わぁ……あ?」


 エフィと手を繋ぎ、玄関をくぐるとそこには――今のノンではとてもではありませんが乗り越えられない大きな塀がありました。彼としては玄関の先には広大な大地、もしくは住宅街が広がっていると思っていたので拍子抜けしてしまいます。


「この塀の向こうは他の人のお家だから勝手に行ったら駄目だよ?」

「はーい」


 どうやら、予想通り、エフィたちは裕福な家庭のようで庭付きの大きな塀に囲まれた家に住んでいるようでした。左手を見ると外に繋がる門が見えたのであそこから出入りするようです。


「じゃあ、こっちに行こうねー」


 その門を見ているとエフィに優しく手を引かれ、逆の方向へと導かれました。門の外も気になりますが今日は諦めた方がよさそうです。


(おお、広い……)


 エフィに連れてこられたのは洗濯物を干すための柵が設置された広い庭でした。特にこれといったものはありませんが初めての外ということもあり、見るもの全てが輝いているのは気のせいではないでしょう。


「あんまりはしゃぐと転んじゃうから気を付けてね」

「はーい」


 ノンがわくわくしているのを見て微笑ましそうに眺めていたエフィでしたが、そう注意しながら彼の手を放しました。


 自由の身となったノンはキョロキョロと周囲を観察しながら前へと進みます。庭は芝生のような背の短い草で覆われており、転んでも優しく受け止めてくれるでしょう。


(懐かしい匂いがする)


 ノンが外に出たのは前世を含めて約十年ぶりです。しかし、意外と外の匂いを覚えていたらしく、この世界でも同じようでした。


 それからノンは気になるものを見つけては近寄り、観察。そして、次の場所へ、と繰り返します。そんな彼をエフィは後ろからニコニコと笑って見守っていました。


「奥様、お昼の準備ができました」

「あ、はーい。ノン、お昼だって」

「うん、わかった! ちょっと待ってて!」


 エフィに返事をしつつ、最後に家の裏はどうなっているのだろうと庭の奥へと進み、曲がり角から顔を覗かせます。


「おー……お?」


 家の裏も変わらない様子でしたが、意味もなく感心してしまいます。ですが、不意に目の端で動く何かに気づきました。


『だれー?』

『かわいー』

『みえてる?』

『いいにおいー』


 そこには小さな光の球が浮いていました。数は四つ。それぞれ、赤や青、黄色、紫と色が若干、違うようですがその球から幼い子供のような声が聞こえてきます。


「えっと?」


 エフィが見せてくれた魔法の球とは違う何かにノンは困惑してしまいます。その様子を見て小さな光の球たちは嬉しそうに動き回りました。


『みえてる!』

『すごい!』

『なかま!』

『いっしょに!』


「へ?」


 その光の球たちはいつしかノンの周囲をぐるぐると回り――。






「……は?」






 ――僅かな浮遊感の後、彼の目に映す光景は家の庭ではなく、どこか背筋が凍りついてしまいそうなほど神秘的な雰囲気に包まれた森の中でした。












「ノンー?」

 お昼の準備を終えたエフィーナ(・・・・・)はノンが裏の庭に回ったのを見ていたため、彼を呼ぶために裏の庭へ顔を覗かせた。

「……あれ?」

 しかし、そこには彼の姿はどこにもない。微笑ましく遊んでいる我が子の姿を想像していた彼女は思わず首を傾げた。

(反対側まで行っちゃった? ううん、これは……)

 普段は大人しいノンだったが初めての外ということもあり、テンションが上がっている様子だった。そのまま家の反対側まで走って行ってしまった可能性もあるが、それ以上に気になったのは魔力とは違う、不思議な力の残滓。

「ッ……ルー! ルー!!」

 その力の正体に気づいたエフィーナは慌ててピクニックの準備を終え、紅茶を淹れているルルーカ(・・・・)へと駆け寄ります。

「どうなされました……おや、ノン様はどちらに?」

「そ、それがね! 大変なの!」

 愛しい我が子の姿がなく、慌てた様子で――満面の笑みを(・・・・・・)浮かべながら(・・・・・・)エフィーナは近所迷惑待ったなしの大きな声で叫びます。





「ノン、精霊隠し(・・・・)にあったみたい!!」

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