第280話 気持ち
「……おうちに帰りたい、か」
奇しくも女の子の口から出た願いはノンと同じものでした。家に帰りたい。家族に会いたい。元の日常に戻りたい。ああ、そうです。それはノン自身がずっと願っていることそのもの。
「……」
これまでどこか他人事のようにしていたアレッサが初めて心配そうにノンを見ました。当たり前です。この二か月、ノンがどれだけ頑張って旅をしていたのか彼女が一番わかっていました。
「……うん、わかった」
そして、心優しいノンは自分のことを後回しにして獣人の子供たちに手を差し伸べてしまうことも知っていました。
「待て」
ですが、それを制止したのはグレイクでした。その目はどこかノンを非難するような鋭さがあり、ノンも少しだけ身構えてしまいます。
「お前はそれでいいのか?」
「はい、大丈夫です」
「違う。この子たちを家に帰すことがどれだけ大変なことかわかっているのかって聞いている」
ノンはこの世界のことをあまり知りません。きっと、この子たちをおうちに帰す旅も大変なものになるでしょう。
「いえ、知りません。それでも大丈夫です」
「いや、そうじゃない。もっと事情を聞いてから――」
「――いいんです。こんな思いをする子供は少ない方がいいんですから」
しかし、ノンの気持ちは揺らぎません。だって、彼らの気持ちが一番わかるのはノン自身なのですから。
「お前……」
「グレイク、さん?」
その言葉の重みに気づいたグレイクは目を見開き、ノンの覚悟を前に悔しげに奥歯を噛み締めました。そんな彼の様子にノンも驚いてしまいます。
「……わかった。オレも行く」
「え?」
「獣人のことならオレの方が詳しいだろう。この子たちが家に帰られるように協力させてほしい」
「ッ……はい!」
「はぁ……じゃあ、一旦、ボアレに帰りましょ」
図らずともグレイクと旅をすることになったノンは嬉しそうに笑いました。そんな彼らにアレッサは肩を竦めた後、パンと手を叩いて全員の注目を集めます。
「あ、その前に」
「ひっ」
「あ、おい! なにすんだ!」
しかし、何かを思い出したようにアレッサが女の子へと手を伸ばしました。人間に対する恐怖はまだ残っているのか、彼女は悲鳴を上げてその場にしゃがみ込みます。そんな彼女を守るように男の子が間に割って入ります。
「はい、動かないでね」
ですが、アレッサは特に気にすることなく、男の子の首輪を掴んで――握りつぶしました。バキリ、と音を立てて首輪の破片が地面に落ちます。
「……は?」
「そんなの付けてたら息苦しいでしょ。ほら、あなたも」
自分の首に付いていた首輪の残骸を見て茫然とする男の子。女の子もまさか首輪が壊れると思わなかったようで目を丸くしていました。その隙に女の子の首輪もさっさと破壊してしまいます。
「お前、何を?」
「首輪に魔力を流し込んで壊したのよ。最初から壊れてたし、簡単だったわ」
簡単そうに言うアレッサでしたが子供たちの首を傷つけないようにボロボロと崩壊するように破壊したのをグレイクは見逃しませんでした。
「あ、ありがとうございます!」
「あとは身なりをどうにかしないと……ノン、マジックバックから予備の服を出して」
「え、アレッサさん!?」
「隠し事しながらこの子たちと旅をするのは無理よ。ここからは持てる物、全部使いましょ」
あれだけ隠せと言っていたのにはっきりとマジックバックと口にした彼女にノンは目を見開いてしまいます。ですが、アレッサは気にすることなく、笑いました。
「アレッサさん……」
「さぁ、やることは多いわ。この子たちの身なりを整えたら行動開始よ」
「はい!」
やることは決まりました。あとはそれを叶えるために動くだけです。
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