第278話 奴隷
奴隷。人権を認められず、道具同然に扱われる人のことであり、何をされても逆らえない極めて残酷な制度です。
「そんな……」
思わずノンは声を震わせてしまいました。目の前に立つ獣人たちはノンと同じぐらいの歳であり、普通であれば両親に愛情を注がれて日々を過ごしているはずです。
しかし、現実はあまりに非道でした。何日もお風呂に入っていないからか、髪はごわごわ。食事も満足に取っていないのでしょう、頬は痩せこけて今にも死んでしまいそうなほど衰弱しています。
「ノン、食料は持っているか? 可能なら柔らかい果実がいい」
「は、はい!!」
ショックのあまり動けずにいたノンにグレイクは冷静に話しかけ、慌てて背負うマジックバックに手を突っ込みました。そして、バナナに似た果実を取り出して皮を剥いてあげます。
「はい、どうぞ」
「ッ! い、いいのか?」
バナナを両手に持って二人に差し出すと男の子は目を見開き、ゴクリと生唾を飲み込みました。女の子もジッとバナナから目を離しません。
「うん、たくさんあるから」
「い、いただきます!!」
男の子も女の子もノンから引っ手繰るようにバナナを受け取り、無我夢中に食べ始めました。その勢いはすごく、すぐに食べ終えてしまいそうでした。
「まだあるからゆっくりで大丈夫だよ」
そんな彼らに優しく笑いかけ、ノンは次のバナナを用意します。もちろん、一本で足りるわけもなく、二人はどんどんバナナを食べ続けました。
「ノン、少しいいか?」
「はい、なんでしょう」
獣人の子供たちがバナナに夢中になっているとグレイクは小さい声でノンに話しかけます。バナナを両手に持ちながら彼らに悟られないようにチラリと彼を見上げるとどこか険しい表情を浮かべていました。
「あの首輪、破損している。おそらく事故か何かで逃げ出せたんだろう」
「事故?」
「奴隷商は基本的に荷馬車に奴隷を乗せて移動する。その荷馬車が魔物か盗賊に襲われた時に首輪が壊れる時がある」
「どうして、奴隷商が管理してるってわかったんですか?」
「この子たちの身なりがあまりに酷いからだ。貴族の所有物になっているならもう少しマシな格好をしている」
そう語るグレイクは硬く拳を握りしめます。どうして、彼は奴隷に関してこれほど詳しいのでしょう。それを聞けるほどノンはまだ彼のことを知りませんでした。
「おい、もっとくれ!」
「あ、うん。でも、たくさん食べるとお腹がビックリするからこれが最後ね」
「えー」
バナナを貰ったからか、すっかりノンに心を許した二人は『美味しいね』と笑い合いながらバナナを食べています。そんな彼らを見てノンはキュッと胸が締め付けられました。
「この後、どうするつもりだ?」
「……事故で逃げた奴隷が見つかった場合、どうなりますか?」
「その奴隷商がどこの組織に所属しているかによるが……基本的にはまた商品として連れていかれる」
「……」
きっと、この子たちが逃げ出せたのは奇跡だったのでしょう。しかし、その途中でクレイウルフに見つかってノンたちと出会った。
もし、ノンがこの子たちを奴隷商へ連れて行った場合、また不当な扱いを受けてボロボロにされてしまうでしょう。もしかしたら今度こそ死んでしまうかもしれません。
「……」
そう、目の前にいる獣人の子供たちの今後はノンに委ねられたのです。その重さに彼は言葉を詰まらせるしかありませんでした。
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