第276話 救出
(すごい……)
ノンは現場へ向かいながら隣を走るグレイクに対して思わず感心してしまいました。常に魔力感知で魔力反応を観察し、あまり余裕がないとわかったため、彼はグレイクに黙って魔力循環の出力を上げて身体能力を向上させています。もし、グレイクが追い付けないようなら出力を落として足並みを揃えよう。そう考えていたのです。
「……」
しかし、グレイクは肉体強化を施したノンと同等の速度で走っていました。アレッサとの決闘から思っていましたが彼は弓使いにしてはあまりに身体能力が高いような気がします。そうでなければ喧嘩殺法魔法を使う彼女とあそこまでいい勝負はできなかったでしょう。
「あとどれくらいだ?」
「ッ……もう少しです!」
森の中を難なく走るグレイクに問われ、ノンは意識を切り替えて魔力感知に集中します。反応は全部で五つ。その内、二つは逃げるように走っており、それらを三つが追いかける、という形でした。
(やっぱり、冒険者にしては反撃が少ない……)
以前、夜の森で冒険者の男性を助けたことがありましたが彼は大怪我を負いながらもコボルド相手に必死に剣を振るっていました。
ですが、逃げる魔力反応は足を止めることはほとんどなく、三つの魔力反応から必死に逃げ続けているだけ。それにその魔力はどこか弱々しく感じました。
「……」
「っ……」
嫌な予感がします。ノンは更に魔力循環の出力を上げてスピードを上げました。さすがにグレイクも更に速くなったノンには驚いたのか、隣から息を呑む音がします。
そして、ほどなくしてノンとグレイクは現場へと辿り着きました。そこにはボロボロの布で小さな体をすっぽり覆った子供らしき人が地面に倒れ、今まさに魔物――クレイウルフの鋭い牙の餌食になるところでした。
「駄目ッ!」
咄嗟に包帯を伸ばせたのはこれまでの戦いがあったからでしょう。白い包帯は子供の前を通り過ぎました。しかし、クレイウルフは視覚外から白い包帯が飛んできたため、後ろに下がって周囲を警戒します。
「グレイクさん!」
「わかっている!」
ノンが彼の名前を叫んだ頃にはすでに弓と二本の矢がその手にあり、同時に放ちました。空気を切り裂くような矢は二体のクレイウルフへと突き刺さり、短い悲鳴が森に響き渡ります。
(今のうちに!)
「え? ええ!?」
「な、なにこれ!」
グレイクが時間を稼いでくれている間に白い包帯を倒れていた子供へ伸ばして巻きつけました。更に茂みに隠れていたもう一人も別の包帯でしっかりと回収して自分たちの傍へと引き寄せます。
いきなり包帯で回収された二人の子供はただ混乱するしかありません。そして、ボロボロの布の奥にある瞳がノンを見つけました。
「ッ!? 人間!?」
「もうちょっとで終わるから大人しく待っててね」
茂みに隠れていた子供が叫びました。もちろん、今はクレイウルフをどうにかするのが先のため、落ち着かせようと声をかけて前方へと視線を戻します。
「……」
そこにはすでに塵のなった三体のクレイウルフと弓矢を消したグレイクがいました。どうやら、ノンが子供を回収している間に倒してしまったようです。
「……無事か?」
「はい、大丈夫そうです」
「……そう、か」
ノンの傍で尻もちを付いている二人の子供をちらりと見た後、すぐに視線を外してしまいました。その背中はどこか小さく見え、ノンは思わず首を傾げてしまいます。
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