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英雄くんはおうちに帰りたい  作者: ホッシー@VTuber
第四章 狩人さんは想い人に会いたい
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第274話 進歩

「え?」


 まさかお礼を言われるとは思わず、ノンは足を止めてしまいました。それと同時にグレイクも振り返り、フードの奥で彼の瞳が僅かに光ります。


「フォスイールがシスイールだと気づいたことだ。お前が叫んでいなければシスイールは分裂して大変なことになっていた」

「あ、いえ……偶然ですよ」


 あの時、ノンがシスイールだと気づいたのはグレイクの矢の軌道をよく観察しようと目に魔力を集めて強化していたからです。おそらく、フォスイールからシスイールになってから日が浅かったのでしょう。あの個体の目が二つだけ異様に小さかったことを今更ながら思い出しました。


「……どうして、お前はこの依頼を受けたんだ?」


 ずっと気になっていたのでしょう。グレイクは昨日と同じようにノンへ質問しました。ボアレの冒険者が見て見ぬ振りした塩漬けの依頼。好き好んで受ける人は珍しいでしょう。


「受付嬢さんが困ってたので」

「……それだけか?」

「はい、それだけです」


 ノンがこの依頼を受けたのはただそれだけです。確かに報酬はそれなりに高かったですが、蓋を開けてみれば情報と乖離した個体との戦闘。ブラックオウルの一件と同様、魔族との戦争によって人員を割けられなかったとはいえ、冒険者ギルドの過失であることには間違いありません。


「……はは」


 素直に頷いたノンを見たグレイクは初めて小さく笑いました。そして、そのままノンに背中を向けて歩き出してしまいます。


「え、グレイクさん?」

「シスイールの肉を用意してくれ。朝飯に使う」

「っ……わかりました!」


 彼の言葉に笑みを浮かべたノンは駆け出してその隣に並びます。それでもグレイクは避けることなく、歩き続けました。






「はい、これで終わりっと」


 パチパチと音を立てて燃えるシスイールの死体を見てアレッサは額に滲んだ汗を袖で拭います。現在の時刻は朝の九時。グレイクが作った朝食を食べ終えた三人は予定通り、シスイールの死体を燃やしていました。


「あとは燃え尽きるまで待ってましょ。森に引火したら大変だから」

「わかりました」


 木の枝や燃えやすい木の実などを集めて着火剤として最後のアレッサの火魔法で火を点ける。作業自体はそれで終わりですが、シスイールの死体は大きいため、燃え尽きるまでそれなりの時間を要します。


「じゃあ、いつものやる?」

「そうですね。お願いします」

「何をやるんだ?」


 二人のやり取りに何やら作業をしていたグレイクは声をかけます。相変わらず口数は少ないものの出会った時よりも確実に話しかけてくる回数は増えていました。それがどこか嬉しくてノンはニコニコと笑いながら彼の方へ顔を向けます。


「今から師匠と組手をするんです!」

「……組手、だと? 魔法の練習ではなく?」

「あ、僕、魔法は一切、使えないんですよ」


 ノンの言葉にグレイクは数秒ほど黙った後、アレッサへと視線を送りました。ノンがアレッサのことを『師匠』と呼んでいるため、二人は師弟であることは明らか。そのため、ノンはアレッサから魔法を学んでいると思っていたようです。


「ええ、そうよ。魔法じゃなくて……そう、人生の師匠って感じ?」

「意味がわからん」

「色々、教えてるってことよ。そっちは何してるの?」

「罠を作っている」

「へぇ、罠!」


 そう言いながら興味深そうにグレイクの手元を覗き込むノン。彼の言うとおり、紐を連結させて仕掛けを作っているようです。


「これはどんな罠なんですか?」

「これは――」


 罠作りが気になるあまり、アレッサとの組手のことが頭からすっぽ抜けたのでしょうか。ノンは次々とグレイクへ質問をぶつけ、それにグレイクも律義に答えていきます。


「……まったく」


 そんな二人を見てアレッサは仕方ない、と苦笑を浮かべました。

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