第272話 候補
「……」
自分の旅を話したノンでしたがそれ以上、何も言いませんでした。グレイクがその思いを聞いてからどこか心あらずといった様子だったため、時間を空けようと思ったのです。
「話さなかったのね」
今ならシスイールの肉をマジックバックに入れられそうだと判断したアレッサがノンを連れて外に出て切り分ける作業を始めました。もちろん、雨に濡れないように二人の上には包帯で作った屋根があります。
「何をですか?」
「仲間のことよ。誘うつもりなんでしょ」
「……あはは、ばれてました?」
アレッサが肉を切ってノンがマジックバックに入れる。そんな作業をしていると小声で的確に言い当てられ、彼は苦笑を浮かべるしかありませんでした。
「後衛だし、腕も申し分ない。いくら依頼がないからってこんな面倒そうな依頼を受けるほどのお人好し。まさにノン好みって感じ」
「えー、そんなにわかりやすかったですか?」
「そりゃもちろん。だから、変だなって」
グレイクは態度こそぶっきらぼうですがノンに対する態度や言動から彼の人の良さはアレッサにもわかりました。彼こそ自分たちが探していた仲間にふさわしい人材。だからこそ、ノンが仲間に誘わなかったことに驚いたのです。
「……何となくですが、グレイクさんはそれどころじゃないと思います」
「それどころじゃない?」
「はい……なんていうか、余裕がない感じでしょうか。多分、何か目的があって旅をしてるんだと思います」
これはあくまでノンの直感。ですが、何となく的外れではないと確信している自分もいました。
「根拠は?」
「ないです」
「はぁ……普通なら考えすぎって言うところなのにノンが言うと本当にそうなんじゃないかって思えちゃうのよね」
また一つ、シスイールの肉を切り分けた彼女はノンへとそれを手渡しながらため息を吐きます。そして、仕方ないな、と困ったような笑みを浮かべました。
「手伝いたいんでしょ」
「ッ……」
「やっぱり……本当にわかりやすい子ね」
更に核心を突かれ、ノンは思わずドキッとしてしまいます。そんな彼を見て予想が当たっていたとわかった彼女は小さく笑いました。
アレッサはノンに様々なことを教えてくれます。そして、彼がしたいことに文句を言いながら付き合ってくれる優しい人。そんな彼女にノンは頭が上がりません。
「でも、あの人は人を避けてるわ。彼の事情を聞き出すのは難しいと思うけど」
「そう、ですよね」
グレイクの態度は明らかに人を毛嫌いしています。そのため、彼から事情を聞かれるとは思っていなかったので驚いてしまったほどでした。人嫌いなら他人の事情など気にするわけがないからです。
「何か考えはあるの?」
「もちろん、ありません」
「なら、諦める?」
「うーん、どうでしょう」
ノンの事情を聞いたグレイクは様子が変わったのは確かですが、その真意はまだ掴めていません。ですが、どうしてでしょう。彼はどこかホッとしたようなため息を吐いたような気がしました。
だからこそ、ノンは自分の目的を後回しにしてでもグレイクのことを助けたいと思ったのです。そう思った理由は彼自身、あまりわかっていませんがその気持ちは本物でした。
「まぁ、この雨じゃ今日はここで野営するしかないわ。ボアレに帰るのは明日。それまでに何とかしなさい」
「えー、そんな無茶な」
「できないなら諦めなさい」
グレイクのことで手伝うつもりはないようでシスイールの肉を切り分け終えたアレッサは肩を竦めながら立ち上がります。仕方なく、ノンもそれに続いてマジックバックを背負い、白いドームへと向かいます。
「どうしようかなぁ」
雨の勢いは衰えておらず、簡単に止みそうにありませんでした。
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