第269話 解体
「適当なヒレを切って持って帰ろう。それで駄目ならギルド職員と一緒にまたここに来て直接確かめてもらえばいい」
「おー、なるほど」
グレイクが二人に合流し、討伐証明について話したところ、すぐにそんな案が出てきました。確かにヒレならなんとかなる大きさですし、面倒ですがギルド職員と一緒に確認しにくればいい。アレッサも納得したようでホッとしたようにため息を吐きました。
「じゃあ、シスイールを回収しますね」
現在、シスイールは湖に浮かんでいます。このままではヒレを切れないため、ノンは包帯を伸ばしてシスイールの死体に巻きつけて引っ張りました。
「ふんっ! ぐ、ぐぐ……うぐぐ」
しかし、全長十メートル以上の大物。例え、死んでいたとしてもそれを引き上げるのは難しく、ノンは必死に包帯を使ってシスイールを岸へと近づけます。
「……手伝う」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、私も」
見かねたグレイクがノンの包帯を掴んで一緒に引っ張り始めました。アレッサもその後に続き、しばらく格闘してなんとかシスイールの死体を陸に上げることに成功します。
「はぁ……はぁ……本当に大きいですね」
やはり、シスイールの全長は十メートルを余裕で超えており、この一年間で予想以上に成長したのでしょう。そんな六ツ目鰻に感心しているとグレイクが無言でナイフを取り出してヒレへと向かいます。
「ここからはオレがやる。休んでいろ」
「は、はい……ありがとうございます」
それから彼は黙々とシスイールのヒレを解体し始めます。その手際はスムーズであり、解体に慣れているようでした。
「へぇ」
その手際の良さはアレッサも感心するほどです。彼女も冒険者歴が長いため、解体のやり方は知っていますが手先はそこまで器用な方ではありません。ノンにも教えていますが知識に技術が追い付かず、あまり上手くいっていませんでした。
「……グレイクさん」
「なんだ?」
「見ててもいいですか?」
「……勝手にしろ」
だからでしょう。ノンがグレイクの解体技術に興味を持ち、近づいて観察します。なお、アレッサは適当な木の傍に座って背中を預けて休み始めました。
「ほー」
「……」
「へー」
「……見てて楽しいか?」
「え、はい!」
感心したように声を漏らす彼に我慢できなくなったのか、グレイクが話しかけてきます。それに対し、好奇心旺盛なノンは嬉しそうに笑って頷きました。
「……そうか」
そんな彼を見てグレイクはどこか呆れたように声を漏らし、唐突にノンへ解体ナイフを差し出しました。
「え?」
「やってみるか?」
「ッ! ぜひ!」
グレイクの解体ナイフを受け取ったノンはシスイールのヒレへと向き直ります。団扇型のそれの表面はぬめぬめしており、ナイフを突き立てても滑ってしまいそうでした。
「ヒレは滑りやすい。左手でしっかり掴んで切っていく」
「こう、ですかね」
「刃の立て方が悪い。これだと切った断面がガタガタになって切りづらくなる。もっと垂直に刃を入れろ」
「はい!」
それからグレイクの指導の下、数十分ほどかけてノンはシスイールのヒレを切り離すことに成功しました。切り離したヒレはノンの顔よりも大きく、シスイールがどれだけ大きかったかそれを見ただけで想像できるほどです。
「グレイクさん、ありがとうございます!」
「……別に」
ヒレだけとはいえ、初めて解体を行ったノンは解体ナイフをグレイクに差し出しながらお礼を言いました。そんな彼の笑顔から顔を背け、グレイクは解体ナイフを受け取ります。
「じゃあ、このあとは……ん?」
「うげ、降って来ちゃった」
この後の予定を話そうとした瞬間、彼の頬に冷たい何かが当たりました。そう、雨が降ってきたのです。アレッサが予想していたよりも早く降ってきたそれにノンたちは慌てて雨を凌ぐ準備を始めました。
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