第268話 駆除
ノンがシスイールの拘束に成功した瞬間、森から飛び出した二本の矢。グレイクがここだ、と判断して曲がる矢を放ったのです。
タイムリミットは次の二本の矢が放たれるまで。曲がるといっても矢がシスイールに着弾するまで時間はありません。それまでにノンは目を攻撃するために近づく必要があります。ですが、今、踏ん張るのを止めたらシスイールの拘束が更に緩んで奴は大暴れするでしょう。
「師匠、一瞬だけ痺れさせてください!」
「わかった!」
ノンの声にアレッサは頷き、再びシスイールの傍を通り抜けてそのぬめぬめした体を撫でるように触りました。
「~~~~~ッ!?」
その次の瞬間、シスイールの体から凄まじい閃光が放たれて痛みに絶叫します。喧嘩殺法魔法によってシスイールの体内で雷魔法を形成し、痺れさせたのでしょう。
「この、隙に!」
後ろの木に巻きつけていた包帯を解き、ノンはその場でジャンプ。シスイールを拘束していた包帯を縮めて自分の体を引っ張りました。しかし、シスイールが僅かに体を捩ったため、思い描いていた軌道を外れてしまいます。
「ッ!!」
咄嗟に近くにあった包帯を踏みつけて跳躍。強制的に進路を変えてシスイールの右目へと迫りました。
「追加!」
その時、シスイールを挟んだ反対側でアレッサの声が響き渡ります。グレイクが追加の二本を放ったようです。魔力操作で目に魔力を集中させ、動体視力を強化。そして、右手に包帯を巻きつけて螺旋を作り、高速で回転させます。そう、地下水道で魔族の闇魔法を貫通したあのドリルそのもの。
(ここっ!)
矢が着弾するまでの時間は先ほど見ていたため、把握していたノンはタイミングを合わせて右目の一つにドリルを突き立てました。
「おらっ!」
それと同時に反対側でアレッサの怒声。更に四本の矢が残りの目を貫き、シスイールは大気が震えるほどの悲鳴を上げました。分裂は、しない。ノンたちは見事、シスイールの目を同時に潰せたのです。
「ノン、離れろ!!」
「ッ――」
ホッとする間もなく、アレッサがノンへ声をかけ、彼は包帯を使って自分の体を放り投げるようにしてシスイールから距離を取りました。視界の端では未だにアレッサはシスイールの眼球に腕を突っ込んでいます。それを見たノンは慌ててシスイールから包帯を回収しました。
「閃光!!」
そして、湖に轟く雷鳴。アレッサがシスイールの体内で雷を発生させて放電させたのです。数秒にも渡る雷撃にシスイールは声を上げることもできず、その攻撃を浴び続けました。
「……」
雷撃が止むとシスイールは全身を黒焦げにされ、煙を立ち昇らせていました。それからすぐにぐらりとバランスを崩し、湖へと倒れて大きな水しぶきをあげます。
「よっと」
それを見届けた後、アレッサとノンは地面に着地。湖の方へ視線を向けると絶命したシスイールが湖に浮かんでいました。
「……やったわね」
「はい!」
シスイールの駆除に成功した二人は笑い合って軽くハイタッチを交わします。フォスイールがシスイールになっていたことには驚きましたが無事に依頼は成功。あとはボアレに帰って報告するだけです。
「……でも、これどうやって持って帰る?」
「……あ」
通常、冒険者ギルドに討伐証明のために魔物が落とした魔石を持ち込みます。ですが、シスイールは魔石を飲み込んだ特殊個体。魔物ではないため、魔石はありません。シスイールそのものを持って帰るにしても全長は十メートル。いえ、報告よりも大きかったようでそれ以上の大きさがあります。気軽に持って帰られる大きさではないのは確かでした。
「うーん、困ったわね」
「そうですね……」
森の中からグレイクがやってくるまでノンとアレッサは頭を抱えることになりました。
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