第266話 六ツ目鰻
「目が六つあります!!」
「ッ――」
ノンの言葉にグレイクが反応できたのは奇跡としか言いようがありません。今まさに四つの目に矢が刺さる、というところで彼は矢を消したのです。
「っ! シスイールになってたのね!」
「わっ」
そう叫びながらアレッサはノンを抱き上げて一目散に後ろへと下がりました。今の騒ぎでフォスイール――いえ、六ツ目鰻のシスイールに場所がばれてしまったのです。それも大きな音の原因を殺すために事前に水魔法を待機させていたのでしょう。すでに鰻の周囲には巨大な水の塊が浮いていました。
「――――――!!!」
「ちっ」
凄まじい雄たけびと同時に水の塊がノンたちのいる茂みへと射出されます。グレイクも舌打ちしながらアレッサの後を追いかけ――その直後に大量の水が湖畔の地面を大きく抉りました。
「師匠、あれって!」
「フォスイールは出世魚なの! 長い間、生きていると目が増えてシスイールになる!」
彼女の言うとおり、最初は目を閉じていてわかりませんでしたが左右に三つずつ目があります。つまり、あの目を全て同時に潰さなければならない。目が二つ増えただけなのに難易度はグッと跳ね上がりました。
きっと、アレッサはフォスイールが出世魚だと最初から知っていたのでしょう。しかし、冒険者ギルドがフォスイールを観測したのは一年以上前。まさかこの一年の間にシスイールになっているとは考えもせず、最初から可能性を排除していたのです。
「くそっ」
それはグレイクも一緒でした。水の弾をやり過ごしながら思わず悪態を吐いてしまいます。
「この後はどうしますか!?」
幸い、湖の周囲は森となっており、身を隠すにはもってこい。ですが、ノンたちの姿を見失ったシスイールは手当たり次第に水弾を放ち、どんどん湖周辺の木をなぎ倒していきます。このままでは木がなくなってしまい、身を隠すことができなくなってしまうでしょう。
「やることは変わらないわ。グレイク!」
「なんだ?」
ノンたちよりも逃げるのが遅かった彼ですが器用に木の上を移動して二人の傍に着地します。しかし、ノンが声を上げていなければシスイールを分裂させてしまうところだったため、少しだけ気まずそうでした。
「六個、同時はいける?」
「……厳しいな」
「わかった。なら、私とノンで一つずつ担当するからあなたは予定通り、四つお願い」
「タイミングはどうする?」
「こっちで何とかする。金級冒険者とこの子を舐めないで」
アレッサの目をグレイクはフードの向こうからジッと見つめます。そして、小さくため息を吐き、二本の矢を弓に番えました。
「流れはさっきと同じだ。曲がる矢を放った後に普通の矢を射る。だが、あれだけ暴れられたら当たるものも当たらない」
「ええ、そうね。ノン、包帯であいつの動きは止められる?」
「はい、大丈夫です。なんとかします」
「私は少しでもシスイールの気を散らせる。跳躍も使いたいわ」
「了解です!」
短い作戦会議。それでも自分の成すべきことを理解した彼らは一斉に動き始めました。
ノンとアレッサは茂みから飛び出してシスイールへと突撃します。その隙にグレイクは気配を消して最適な射撃ポイントへと向かいました。
「――――――!!!」
幸い、シスイールの注目はノンたちに集まったため、グレイクの動きに気づきません。しかし、逆説的に巨大な水弾は二人に集中するということでもあります。
「行くわよ、ノン!」
「はい!」
それでも二人は足を止めず、前へと進みます。そして、シスイールはそんな二人に向かって巨大な水弾を大量に放ちました。
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