第263話 一人の時間
いつもより人数が多いのにどこか静かだった食事も終わり、アレッサとグレイクはさっさと寝る準備を済ませてテントへと引っ込んでいきました。ノンが白い包帯で幕を作り、外から見えないようにしたとはいえ、今日、初めて会話した男性がいるのにいつものようにお湯で体を拭いたアレッサはやはり綺麗好きなのでしょう。
「ふんふーん」
今はノンが見張りを担当する時間であり、二十三時までの予定でした。それから深夜の二時までグレイクが、最後にアレッサが朝まで担当します。
焚火が消えないように森で拾ってきた木の枝を適当に放りながらノンは鼻歌を歌って周囲の音に耳を傾けました。警戒するのもそうですが、風が木々を揺らす音やたまに動物が草をかきわける音など夜にしか聞こえないそれらを楽しむのが密かな楽しみだったのです。
「……」
空を見上げ、満点の星空を眺める。きっと、前世でキャンプをしている人たちはこの空気が好きなのだろう。それを確かめる術はもうありませんが間違ってはいないように思えました。
「……寝てもいいんですよ」
そんな時間を過ごしていたノンですが誰にともなくそう言います。そんな彼の言葉に反応する音はありません。しかし、ピンと張った緊張が少しだけ緩んだような気がしました。
(どうしてグレイクさんはそんなに僕を気にかけるんだろ)
チラリとグレイクのテントに視線を送りながらノンはそんなことを考えます。
グレイクはノンたちに帰っていいと言い、アレッサと口論になりました。しかし、その間、ノンには一切、視線を向けず、まるでアレッサを責めるような言い方ばかりしていたのです。見張りの件だってノンにはやらせたくない、という空気がひしひしと伝わってきました。
そして、なにより、その空気が漏れている時の彼はどこか危うい。そう感じずにはいられませんでした。
(確かに見張りを子供に任せるのは嫌かもだけど……うーん)
本当にあれはそれだけの理由なのでしょうか。もっと、何か――グレイクの抱える何かがそうさせたような気がしてなりません。
(まぁ、聞いても会ったばかりの僕に話すわけがないんだけど)
それでも、迷惑だったとしても、グレイクの抱えている何かをどうにかしてあげたいと思ってしまうのがノンです。
(とにかく、今は見張りに集中しないと)
グレイクは鳴子の罠を仕掛けたと言っていましたが以前、戦ったことのあるブラックオウルと同様に魔物の中には空を飛べる個体も数多くいます。姿や魔力を消せるような魔道具を使ってこちらを襲おうとしている盗賊がいるかもしれません。
オウサマから教えてもらった知識だけでは足りないことだらけで、自分がどれだけ楽観的だったのか、この二か月で痛いほどわかりました。経験はそう簡単に積めるものではありません。だから、こうやってグレイクの心配を押し切っていつも通りに見張りをしようと決めました。
現実は理不尽。それをノンもアレッサも――きっと、グレイクも知っているのでしょう。
だからこそ、ノンは少しでも多くの経験を積もうと積極的に行動しています。
アレッサも彼女の師匠が突然、いなくなってしまったようにいつまでノンの近くにいられるかわからないため、教えられる時に自分が持っている全てを教えようとしてくれています。
グレイクは、どうなのでしょう。彼とは会ったばかりなのでその心を汲んであげることはできません。ですが、彼はどこかノンを気にかけているような節があるので悪い人はないとノンは考えています。
「……」
いつか、彼と腹を割って話せる日が来るのか。フォスイール駆除の間しか彼とは行動を共にしないはずなのにノンはそんな日が来て欲しいと願ってしまいました。
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