第262話 野営
「じゃあ、ここで野営しましょ」
そろそろ日が暮れ始めた時、手頃な広さのある場所を見つけたアレッサはノンとグレイクにそう提案して背負っていた荷物を地面に置きました。ノンたちも反論はなく、彼女に続いて野営の準備を始めます。
「見張りの順番だけどノン、グレイク、私でいい?」
「は?」
簡易テントを組み立てながら提案したアレッサにグレイクが作業を進めていた手を止めて彼女の方へと顔を向けました。顔は見えませんがありえないことを聞いたと言わんばかりの反応です。
「こいつも、見張りをするのか?」
「もちろん。あ、少しでも睡眠時間を確保させるために最初に見張りをするのは許して」
「なら、最初から頭数に入れなくていいだろ」
「グレイクさん?」
どうやら、グレイクはノンが見張りをすることに反対のようでした。マーシャと旅をしていた時は特に反論されず、普通に見張りをしていたのでノンは彼の反応に少しだけ驚いてしまいます。
「駄目よ。少しでも見張りに慣れないと」
「明日には終わる依頼だ。見張りは俺一人で十分だ」
「フォスイールの目を潰すのにあなたの矢は必須。徹夜で戦うのはお勧めしないわ」
「なら、お前と交代で入る。それでいいだろ」
「……」
なかなか折れないグレイクにアレッサもテントを組み立てるのを止めて振り返りました。彼女と戦っている間、常に冷静だった彼にしては少しだけ感情的になっているように見えます。
「あの、グレイクさん。僕も見張りに慣れたいのでやりたいです」
このままではまた言い争いが始まってしまう。そう思ったノンはすぐに二人の間に割って入り、グレイクを宥めました。
「……ちっ」
しかし、それも気に食わなかったのでしょう。彼は少しだけノンを見つめた後、舌打ちをして自分のテントを組み立て始めてしまいます。再び訪れた気まずい空気にノンは助けを求めるようにアレッサに視線を向けますが彼女は肩を竦めた後、作業に戻ってしまいました。
「……はぁ」
無言で作業しているからか、順調に組み立てられていくテントを見てノンは思わずため息を吐いてしまいます。果たして、明日は無事にフォスイールを駆除できるのでしょうか。
「これ、は……」
日もすっかり暮れ、焚火が三人を照らす中、グレイクは目の前に置かれたお椀を見て言葉を失いました。その中には出来立てのシチュー。ノンが作った今日の晩ご飯です。
「パンもあるのでシチューに付けて食べてくださいね」
ノンはグレイクにパンの乗った木皿を差し出して笑いました。マジックバックからこっそり出した食材で作ったシチューとアレッサの鞄に入れておき、焚火で軽く温めたパン。野営で食べるには十分すぎる食事です。
「どうして、オレの分まで」
しかし、グレイクが驚いたのは自分の分まで用意されていたことでした。用を足すついでに周囲に魔物や夜盗が接近したことがわかるように鳴子を設置しに行って帰ってきた時にはすでに晩ご飯が完成しており、ノンが当たり前のようにグレイクにシチューが入ったお椀を渡したのです。
「え? 一緒に食べた方が美味しいからですかね?」
「あー、やっぱりノンのご飯は美味しいわぁ……」
「……はぁ」
グレイクの質問にキョトンした様子で答えるノンと彼らを無視してちゃっかり食べ始めているアレッサ。そんな二人を見てグレイクは反論する気力もなくなり、シチューを口に入れ――。
「――あちっ」
その熱さに思わず、そんな声を漏らしました。
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