第258話 スキル
凄まじい速度で飛ぶグレイクの矢。それを見たアレッサは目を見開きました。そして、怒りで魔力が膨張すると共に眼光を鋭くして矢の先端を掴みます。
「ッ……」
「おいおい、手加減か? こんな小細工しやがって」
まさか矢を掴まれるとは思わなかったのでしょう。グレイクの瞼がピクリと動きました。そんな彼の様子に気づかず、彼女は掴んだ矢の先端を見て面倒臭そうに舌打ちします。
(先端が、平たい?)
グレイクの放った矢は先端が平たく、柔らかい材質でできていました。当たったら痛いでしょうが、大怪我にはならない細工。それがグレイクなりの優しさでした。
「これは決闘だぞ。殺す気で来い」
「……ああ、わかった」
アレッサの言葉にグレイクは静かに頷き、三本の矢を同時に弓に番えます。やはり、彼は弓矢を召喚するスキルがあるようでした。
「死ぬ気でかわせ」
「はっ、抜かせッ!」
グレイクが三本の矢を放つのとアレッサの両手から炎が燃え上がったのは同時。そして、グレイクに向かってアレッサが突進し、その途中で迫る矢を一、二、三とリズムよく炎の拳で叩き折ります。しかし、グレイクの矢も手加減していた時よりもその勢いは鋭く、距離を詰めれば詰めるほどアレッサは矢に射抜かれる危険性が増すでしょう。
「―――」
アレッサの動きを見て前衛を担当しているという言葉が嘘ではないと瞬時に判断したのか、グレイクは弓に矢を番えながら後ろへと下がりました。近接戦闘が得意な相手に後衛が接近戦を挑むのはあまりに悪手。そのため、少しでもアレッサから距離を取りたいのでしょう。
「そんな速度じゃすぐに追いついちまうぞ!」
もちろん、それを許すアレッサではありません。右手の平を後方に向けて炎を噴射。炎の勢いを利用し、一気に加速してグレイクへと迫ります。
「ッ!」
加速したアレッサに目を見開いたグレイクでしたが更に二本の矢を生成。番えていた一本を真上に放った後、新しく作った矢たちを素早く番えて射りました。
「ふんっ」
その二本の矢を見た彼女は左手を乱暴に払うようにして振るい、弾き飛ばします。そして、後ろに向けていた右手を握りしめてグレイクへと振り下ろす――ところで彼が地面を蹴って後方へと跳びました。
「なっ」
問題はその距離です。たった一度の跳躍で数メートルほど後方へ下がったグレイクにアレッサは目を見開きました。魔力循環特有の魔力放出はなし。彼は単純な身体能力でアレッサから距離を取ることに成功したのです。
「このっ……は?」
距離を取られたらまた矢を放たれる。そう判断したアレッサは再びグレイクを追うために右手を後ろに向けました。ですが、地面に着地した彼を見てその動きを止めます。
「すぅ」
小さく息を吸った後、彼は手に持っていた弓を消したからです。アレッサの実力を認めたのか、ノンは一瞬だけそんなことを考えましたがフードの中に見えたグレイクの目が静かに燃えていることに気づきました。
「属性は風」
短い言葉。それと同時に彼の右手に現れたのは弓。しかし、先ほどまで使っていたものとは違い、緑色を基調とした装飾品が施されています。
そして、なによりその弓からは膨大な魔力が溢れていました。
「ッ!?」
アレッサもそれを感じ取ったのでしょう。息を呑んだ彼女は慌てて両手を前に出して全力で炎を噴出します。ですが、グレイクは彼女の体が後ろへ跳んだ頃にはすでにその緑色の弓に矢を番えていました。
「死ぬなよ」
そんな言葉と共に放たれたその一射はノンの体が飛んでしまいそうなほどの風を纏い、アレッサへと迫ります。その勢いはこれまでの比ではなく、あれが直撃したらひとたまりもないでしょう。
「師匠!」
自然と審判役になっていたノンですが、思わず叫んでしまいました。ですが、そんな声をかき消すように風を纏った矢は地面へと着弾し、逃げようとしていたアレッサを巻き込むほどの爆発を起こしました。
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