第23話 エフィ
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
ジェードにお墨付きをもらってから少し経ってエフィとルーが帰宅しました。その声をリビングで聞いたノンはソファに座るジェードをチラリと見ます。
「おう、行ってこい!」
「うん」
ニカリ、と笑って頷くジェードに見送られながら彼は玄関へ向かいます。そこには女性が持つには多すぎるほどの荷物を持ったルーとその傍で小さな袋を抱えるエフィがいました。
「……奥様、私は荷物を整理してきます」
「ん? うん、わかった……あ、ノン! 出迎えてくれたのー?」
いち早くノンに気づいたルーは何かを察したようにその場を離れてくれます。もちろん、ノンが相談したことなど知らないエフィは呑気に彼へ笑顔を見せました。
「ぁ……その……」
「……ノン?」
いつもの彼なら『おかえり!』と笑顔を浮かべて彼女に抱き着いていたでしょう。しかし、今回ばかりは訳が違います。
彼の精神年齢は十三と四。幼少期をほとんど寝て過ごしたこともあり、彼自身、精神的に成長しているとは思っておらず、いざ本心を口に出そうとすると気恥ずかしさでもじもじしてしまったのです。
「……何か話したいことがあるの?」
「……うん」
「そっか……なら、お部屋に行く?」
何かを察したのでしょう。エフィの提案にノンは無言のまま、コクリと頷きます。
それから二人は手を繋いで子供部屋へと向かい、病気のことを聞いた時と同じようにベッドへ腰掛けました。
「それで話したいことって?」
「……えっとね」
彼に気を使って場所まで変えてくれたのです。ノンは一度、言い淀んでしまいましたが深く呼吸をして――エフィの顔を見上げました。
「僕ね……病気のせいで魔法も使えないのは残念だよ」
「……」
「でもね、おとうさんに聞いたんだ。もしかしたら、僕は産まれてこなかったかもしれないって」
「そ、それは……」
ノンの言葉にエフィは目を丸くし、声を失います。まさかジェードから産まれる前の話を聞いているとは思わなかったのでしょう。
「だからね、僕は嬉しいんだ。こうやって、おかあさんと一緒にいられることが」
「ノン……」
「だってね、産まれてこなかったらお話しすることも、遊ぶことも、一緒にいることもできなかったんだよ」
そう、死んだはずの自分がもう一度、人生をやり直せる。やり直していると自覚している。それは二度と起こりえない奇跡そのもの。
きっと、この奇跡は神様からいただいた贈り物だ。そう考えているからこそ、ノンは毎日、神様にお礼を言うのです。いただいた贈り物を大切にして、懸命に生きますと祈るのです。
「だから、僕を産んでくれてありがとう、おかあさん」
そして、それと同じくらい、自分を愛してくれる両親とその従者に感謝しているのです。
「ッ……ノンッ!」
感謝の言葉を聞いたエフィは目に涙を浮かべ、ノンへと抱き着きます。その勢いに目を白黒させたノンでしたが、すぐに彼女の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめました。
その姿は病気のことを聞き、落ち込む母親を励ました時と一緒。しかし、彼らの心情は比べ物にならないほど穏やかな方へと向いていました。
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