第252話 出会い
「よっ」
遠くに立つ木に包帯を伸ばしてノンは一気に縮めました。反対側の包帯の先にはアレッサ。二人で大きな川を飛び越えて対岸へと着地します。
「まさか橋が落ちてるなんてね」
腰に巻き付いていた包帯が解かれた後、アレッサは振り返ってボソリと呟きました。彼女の視線の先には昨日の大雨によって増水した川があります。おそらく、橋らしき残骸が岩に引っかかっているので川の激流によって倒壊してしまったのでしょう。
「そうですね。この周辺に住んでる人は苦労しそうですね」
「まぁ、遠回りになるけど川幅が狭いところがあるからどうにかするんじゃない?」
そう言ってアレッサはさっさと歩き出してしまいました。ノンも少しだけ川を振り返った後、彼女の後に続きます。
「このペースなら今日中に次の街に着きそうね」
「どんな街なんですか?」
「うーん、前に寄った街で聞いた限りだと冒険者ギルドはあるけどそんなに活発に冒険者は動いてないみたい。周辺の魔物を狩って生計を立ててるんですって」
街によって冒険者の活動量に差があります。レニックスやブレゾニアは冒険者たちがたくさんいるため、活発に行動しており、マーシャの故郷はどちらかといえば落ち着いている方でしょう。
「数日ほど滞在して何もなければ――ッ」
その時、後ろから飛んできた何かが近くの木に刺さり、アレッサは思わず言葉を詰まらせました。ノンたちを狙ったわけではないそれですが矢の羽根付近にロープが括り付けられており、ピンと張られています。相当な威力があるのか、矢はその木に深々と刺さっており、ちょっとやそっとじゃ抜けないでしょう。
(一体、何が……)
問題は誰がこの矢を放ったのか。気になったノンは振り返ると川の対岸に矢を放ったと思わしき人物が立っています。しかし、その人は外套を纏っており、フードもかぶっているため、どんな人なのかわかりませんでした。一応、剛健な体つきをしているため、男性であると考えられます。
そして、なにより気がかりなのが彼は矢を放ったはずなのに手には何も持っていませんでした。背中にも矢筒はなく、ただ矢を放った格好で立っていたのです。
「……」
向こうもノンたちの姿は見えていますが特に気にすることなく、木と木の間に張ったロープに跳び乗って川を渡り始めました。細いロープの上を一切、バランスを崩すことなく、渡る姿は曲芸のようでノンは思わず感心してしまいます。
「あの人、強いわ」
アレッサも謎の男性を見ていたのか、視線を鋭くして言葉を零します。確かにノンたちが渡った川は川幅が広く、対岸から木に矢を命中させる精度は計り知れません。ましてや、矢の羽根にロープを括り付けた状態のため、普通に矢を放つよりも難易度は難しいでしょう。
「……」
ロープを渡り切ったその人は矢を回収することなく、歩き出してノンたちへと近づいてきます。そして、ノンたちの横を通り過ぎました。
「あ」
身長の低いノンは自然と彼を見上げる形となり、一瞬だけ彼と目が合ったような気がしました。ギロリ、と刺すような眼光に少しだけ驚いてしまいます。もちろん、それ以上に目の怖い人が隣にいるので睨まれた程度では怯むこともなく、すぐに平常心に戻りました。
男性は速度を緩めることなく、さっさと二人を追い抜いて先に行ってしまいます。そんな彼をノンたちは黙って見つめ、姿が見えなくなった頃になってやっと顔を見合わせました。
「すごい人でしたね」
「……ええ、そうね」
「師匠?」
ノンが感想を漏らしますがアレッサは何か気になることでもあるのでしょうか。少しだけ反応が悪く、思わずノンは首を傾げてしまいます。
「まぁ、別にいいわ。それよりも街を目指しましょ」
「あ、はい」
男性が進んだ先はノンたちと同じ方向。もしかしたら同じ街を目指しているのかもしれません。そんなことを考えながらノンはアレッサと共に再び歩き出しました。
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