第249話 完治
今回から第四章、始まりです!
王都を離れたノンたちは一体どこへ向かい、どんな冒険をするのかお楽しみに!
王都で魔族を追い返した小さな英雄は新たな仲間や情報を求め、旅を続けます。魔法使いの師匠は相変わらず厳しいですが、それでも王都の事件以降、より深い絆で結ばれ、二人三脚で目的地を目指していました。
その道中、彼らは弓使いの狩人さんに出会います。
彼は過去の経験から人間を忌み嫌い、ただ探し人を求めて旅を続けていました。
偶然にも同じ依頼を受けたことで数日ほど共に冒険することとなりますがその道中、またしても事件が起きてしまいます。
ですが、狩人さんの想いを聞いたからこそ、彼は英雄となれたのです。だって、ただ真っすぐ前を見て願いに手を伸ばす勇気を貰ったのですから。
「―――」
音にもならない呼吸音。肺に溜まった二酸化炭素を排出するだけの行為によって一瞬だけ視界がクリアになりました。そして、迫る炎の拳に左手の甲を添えます。
「ッ――」
凄まじい熱気ですが、包帯を巻いていたからか小さな手はその拳の軌道を僅かに変えられました。そのまま右肩から体を回転させてそれを後ろへ流します。
「すぅ」
今度は肺に酸素を供給。通り過ぎていく炎の拳と黒いローブを視界の端に捉えながらあらかじめ地面に刺しておいた包帯を縮めて幼い体を全力で引っ張りました。そのおかげで追撃の蹴りを紙一重で回避。遠ざかっていく魔法使いのような恰好をした女性を見て冷や汗を流しました。
「――いいね」
渾身の蹴りをかわされるとは思わなかったのか、魔法使い――アレッサはニヤリと笑いながらボソリと呟きます。ですが、その次の瞬間にはその拳が雷を纏いました。
「ちょ、それは反則では!?」
「蹴りも避けられたんじゃ次のステップに行くっきゃねぇだろ?」
「それにしたって何段階も跳ね上がってますよ!」
降参、と言わんばかりに両手を上げてノンは必死に訴えかけます。彼女が操る魔法――喧嘩殺法魔法には三種類あり、炎を纏う【爆裂】。水流を起こす【激流】。そして、雷の力によって速度を限界まで引き上げ、相手を黒焦げにする【迅雷】。
まだ【爆裂】なら熱に耐えられますが【迅雷】はまさに目にも止まらぬ速さとなるため、魔力循環によって視力を強化できるノンであっても凌ぐのは至難の業。今の彼には対抗手段がないため、降参するしかありませんでした。
「なんだ、ここからだってのに」
「包帯である程度軽減できるとはいえ痛いものは痛いんですよ?」
「ヒュドラの猛毒を克服にしたてめぇが言っても説得力がねぇな」
「うっ……」
どこか拗ねた様子で毒を吐くアレッサ。そんな彼女の様子にノンは思わず言葉を詰まらせます。
王都で魔族と戦ってから早一か月。無理が祟って療養が必要だったノンですが、アレッサの手当てによって無事に完治しました。しかし、ヒュドラの毒刃で刺された影響が体のどこかに現れるか慎重に調べましたが特に症状はなく、アレッサは安堵すると共に『なんでもっと早く言わないの!』と珍しくノンを叱ったのです。ヒュドラの毒刃に関して話したのが王都を離れてから一週間ほど経ってからだったのも彼女の怒りを燃え上がらせる燃料となりました。
それから事あるごとにねちねちとその点を弄られ、その度にダメージを受ける。それが最近の彼らのやり取りでした。アレッサがここまで引っ張るとは思わず、ノンは小さくため息を吐くしかありません。それだけアレッサはノンのことを心配しているということでもあるので強く言えないのが痛いところです。
「それにしても……やっぱり、強くなってるわね」
とりあえず、今回はこれぐらいで許してくれるのでしょう。普段の口調に戻った彼女は不思議そうにノンの体を眺めながらそう言いました。
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