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英雄くんはおうちに帰りたい  作者: ホッシー@VTuber
第三章 英雄くんは王都へ行きたい
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閑話3 そのあと

「調査の結果は?」

 ノンとアレッサが王都から少し離れた原っぱで笑い合っている頃、王都にあるブレゾニア城の謁見の間にてブレゾニア国の国王、『ノールム・ル・ブレゾニア』は今回の騒動の調査を担当した家臣からその結果を聞いていた。

「地下水道に三つの死体がございました。どれも指名手配中の闇ギルド所属の盗賊です。また、他に不審なものはありませんでした」

「そうか……」

 転移魔法陣を使用し、魔族を王都へ侵入させた今回の事件。それは王都の歴史の中で最も滅亡の危機に瀕する大事件だった。

 しかし、そのはずだったのに魔族は地下水道で少し暴れただけで転移魔法陣を使われて元居た場所へ転移されたのである。被害は街路に開いた大きな穴と地下水道の一部が崩落したことによって地盤が歪み、建物がいくつか破損したぐらいだ。怪我人は多少いたものの死んだ者はゼロ。まさに奇跡としか言いようがなかった。

「まったく……闇ギルドは何を考えている」

 悪いことを考える人はどんな時代にもいる。闇ギルドは金、名誉、復讐など様々な理由を持つ、ならず者たちが集まり、設立した非合法な組織だ。

 だが、その多くが人間で構成されており、魔族が人間に対して戦争を仕掛けている現状、奴らに加担するメリットはない。仮に魔族に味方して人間の国を征服した後、他の人間と同じように奴隷として扱われるとしか思えないからだ。

「転移魔法陣はどうなった?」

「地下水道の崩落により、瓦礫の下に……現在、撤去作業中です」

「そうか……その作業が終わり次第、最優先で魔法陣を破棄する」

「……よろしいのですか? あれは王家(・・)に伝わる逃走用の魔法陣ですが」

「構わん。転移先の魔法陣が魔族に占拠されている時点で不要なものだ」

 いくら魔法陣が王家の血を受け継ぐ者しか起動できないからと言って今回のように無理やり起動させられる可能性はある。そのため、ノールムは一刻も早く魔法陣を破棄した方がいいと判断したのだ。

「お父様、今いい?」

 その時、謁見の間に小さな女の子が顔を覗かせた。淡いピンクが混じった金髪。年齢は六歳ほどであり、その瞳は灰色に染まっている。そして、その右手の中指には白い宝石が施された指輪。そう、悪質な魔道具によって城から攫われた姫――『ノエル・ル・ブレゾニア』である。

「ノエル? どうしたんだ、お前がここに来るなんて」

「今回の事件のことで話したいことがある」

「話?」

 ノンたちに救われた夜、騎士団に保護された彼女はそのまま城へと送られ、無事に家族と再会することができた。その際に大まかな事情を説明しており、今回の事件に魔族が関わっていることを知ったのである。

(にわかには信じられなかったがな)

 ノエルは王族の中で最年少であり、まだ城から外出したことがなかった。数年前までなら民の暮らしを学ぶために住民の格好に変装して外に出すなど、色々と経験させていた。事実、ノエルの上の兄弟は何度か外に連れ出している。

 だが、この数年で魔族との戦争が始まり、その混乱に乗じて闇ギルドが頻繁に活動するようになってしまった。それは王都の中でも例外ではなく、そんな状態で幼いノエルを外に出すわけにはいかなかったのである。

 そのせいもあり、ノエルは感情が表に出にくい子供に育ってしまった。いつも眠たそうな顔でぼーっとしており、彼女の将来を心配するレベルである。

 そんなノエルが人攫いに遭い、魔族との戦いに巻き込まれたと淡々と説明された時には『ぼーっとしすぎて夢でも見ていたのでは?』と疑ってしまいそうになった。だが、それを許さなかったのは彼女の目があまりに真剣だったからだろう。

「わたしを助けてくれた冒険者たちについて」

「ッ……」

 そう答えたノエルの目を見たノールムは思わず息を呑んでしまった。怖い思いをしたはずなのに怯えもせず、悲しみもせず、恐怖もせず、その灰色の瞳に宿る何かに気づいたからだ。

「騎士団の報告ではマジカルヤンキーなる冒険者が首謀者だと聞いたが」

「全然違う。すごくいい人だった。魔族と戦って何度も傷を負わせてた」

「何!? 魔族にか!?」

 人間の国で最も大きな国を治めている彼には魔族の情報がいくらか入ってきている。魔族は頑丈であり、魔法に対する耐性が高いため傷を負わせるのは難しく、不死性を抜きにしても厄介な相手だ。

 もちろん、ノールムは騎士団の報告を鵜呑みにせず、家臣に調査するように命令し、マジカルヤンキーは首謀者ではないことを知っていた。だが、まさかそのマジカルヤンキーが魔族を相手に戦い、ダメージを与えたというノエルの報告は彼にとって驚くべき内容だったのである。

「では、マジカルヤンキーがお前を助けたんだな」

「ううん、違う。わたしを助けたのは師匠さんの弟子」

「弟子?」

「うん、わたしと同い年の男の子。師匠さんを呼ぶまでは一人で戦ってくれた」

「は?」

 今度こそ、ノールムは目を点にしてしまった。ノエルを助けたのはマジカルヤンキーではなく、その弟子であるノエルと同い年の男の子。例え、こんな状況で嘘を吐くような子ではないとわかっているがにわかには信じられなかった。

(だが、確かにマジカルヤンキーと行動を共にしていた幼い少年がいるとは聞いている。まさかその子がノエルを?)

 西門での騒動の時、アレッサとノンが一緒にいるところを見た人物――ニックがそのことを憲兵に報告しており、アレッサを追跡しながらノンの捜索も並行して行われていた。もちろん、マジカルヤンキーに関係する情報はすでにノールムの耳にも届いており、報告にあった男の子のことを言っているのだと結論付ける。

「マジカルヤンキーの弟子か……お前と同い年で魔族相手に耐えたということか」

「ぶん殴ってた」

「殴ってた!? その辺にいる実力のある冒険者でも難しいのだぞ!?」

「ノンくんはすごい子……だから、何もできなかったのが、悔しい」

 その時、初めてノエルが顔を俯かせた。彼女が口にした弟子の名前に何か引っかかったような気がしたノールムだったが、愛娘が落ち込んでいる様子にまずはそちらに集中しようとそれから意識を逸らす。

「悔しい? 転移魔法陣を起動させて魔族を追い返したのはお前だろう? 初めて見る魔法陣を起動させただけでもすごいと思うが」

「わたし一人じゃ何もできなかった。彼がヒュドラの毒刃で死にそうになった時、助けることもできずに茫然とするしかなかった」

「ヒュドラの毒刃だと!」

 またしても驚くべき名前が出てきたため、ノールムは声を荒げる。ヒュドラの毒刃。猛毒を滴らせるとても危険な武器であり、掠っただけでも数分とかからず死に至る暗殺に適した一品だ。ノエルの話が本当であればマジカルヤンキーの弟子はそのナイフで死にかけた――つまり、毒を克服したことになる。

(マジカルヤンキーも規格外だと聞いたがその弟子も例外ではなかったか)

「もし、わたしが強かったら……ノンくんがあんなに傷つかなかったかもしれない。何かができたかもしれない。もっと……彼の役に立てたかもしれない。そう考えるとすごく、悔しいの」

「ノエル……」

 感情が表に出にくいといっても彼女はまだ六歳の女の子。ノエルはいつしかポロポロと涙を零し、唇を噛んでいた。その悲痛な姿にノールムは言葉を失ってしまう。

「……ノエル、お前はまだ小さい。だから、そんなに――」

「――ノンくんは小さいのにすごい。未熟なのを歳のせいにしたくない」

「ッ……」

 思わずかけた慰めの言葉を遮った彼女の灰色の瞳はやはり何かを宿している。そう、覚悟だ。六歳にしてノエルは自分の成すべきことを見つけたのである。

「……お前はどうなりたい」

「ノンくんの隣に立てるような強い人になりたい。彼は自分のことを後回しにして人を助けちゃう子だから。だから、今度は私が彼を助けたい。ううん、助けられるようになる」

「……そうか」

 きっと、これはノエルなりの宣言だ。ノールムはいつの間にか成長した娘の姿を見て感慨深い気持ちになり、どう声をかけるべきか悩んでしまった。

「ノエル」

「はい、お父様」

「今は魔族関係の事後処理で忙しい」

「……はい」

「だから、それが終わったら将来、どうなりたいか具体的に相談しよう」

「っ……はい!」

 ノールムの提案にノエルは僅かに笑みを浮かべ、力強く頷く。彼女の選択はノンにどのような影響を与えるのか。それはまだ誰も知らない。






「いやぁ、助かりました! 途中で地図を紛失してしまいまして!」

 そう言いながらもぐもぐパクパクと野菜を中心とした料理を食べるふわふわの短いくせっ毛が特徴的な女性。その体は武骨な鎧に覆われ、彼女の小さな顔が鎧から出ている光景は違和感しかない。

「ふーん……大変だったんだ」

「もー、そうなんです! 久しぶりにハーニンド大陸に戻ってきたんですけど、進めば進むほど寒くなってきて『あ、やばいな』ってなった時には遅かったです!」

「この人、おバカかなー」

「よしなさい」

 がつがつむしゃむしゃと次から次へと料理を胃袋へ運ぶ鎧の女性を見た一般エルフは感想を漏らし、村長に頭を叩かれた。

「まぁ、元気になったんならよかった。数日後にテレーゼ様が来てくれるからそれまではこの集落で過ごしてもらえる? 彼女なら貴女を導いてくれると思うから」

「テレーゼ様?」

「妖精王」

「ええ!? 妖精王!」

 鎧の女性は初めて食事の手を止めて目を見開く。まさかこんな辺境の地に妖精王が向かっていると思わなかったのだろう。

「そう。エルフ族は妖精族と仲がよくてね。何かがあった時、エルフ王に連絡する派と私みたいにテレーゼ様に連絡を取る派がいるの」

「ああ、エルフの国はルニア大陸にあるから妖精王の方が連絡が付きやすいんですかね?」

「そんなもんよ」

 納得した鎧の女性は再び食べる手を進め、料理がどんどん消えていく。それを見た村長は『ああ、冬の蓄えが……』と顔を引きつらせるがテレーゼから『頼みたいことがあるから丁重にもてなしておくのよ!』と言われたため、僅かに肩を落とすだけにすませる。

「ふぅ、ごちそうさまでした! とっても美味しかったです! これなら数日とは言わず、年単位で住みたいですね!」

「絶対に嫌。テレーゼ様が来たらとっとと帰って」

「えー、いいじゃないですかー」

「マジで迷惑だから。本当にやめて」

「それよりなんでこんな北の方まで来たんですかー?」

 村長が鎧の女性に文句を言っていると一般エルフが不意に問いかけた。口元に付いていたパンくずを指で取って食べていた鎧の女性はキョトンとした後、照れ臭そうにくせっ毛を軽く触る。

「いやぁ、かつての仲間から連絡がありましてー。なんでも精霊の国の捜索を頼みたいって」

「精霊の国? その理由は?」

「なんでもお子さんが『精霊隠し』にあってから戻ってこないそうで! その手掛かりが精霊の国にあるかもってことで探したいんですって」

「……」

 その話に村長と一般エルフは顔を見合わせる。彼女たちが頼りにしている妖精王のテレーゼは精霊王と仲がいい。それはエルフ族だけでなく、世間に広まっている噂だ。

「……ん? ああ!!」

 そして、鎧の女性も自分で話して初めて精霊王と妖精王に繋がりがあることを思い出したのだろう。バン、とテーブルに手を叩きつけて立ち上がった。そのあまりに腕力にテーブルの上に乗っていたお皿たちが一斉に飛び上がり、かちゃかちゃと音を立てて元居た場所に着地する。

「これは幸運! 妖精王に直接聞けば何かわかるかも! これでエフィもジェードも喜ぶ!」

「あ、ちょっと!」

 そんなことを気にも留めず、鎧の女性はそのまま村長の家を飛び出した。やっと、見つけた手がかり。それがもうすぐそこまで来ていることに興奮しているのだろう。

(早く二人にいい知らせができるといいな!)

 彼女――『レナート・ボルゼア』は鎧の中からかつての仲間から届いた手紙を太陽にかざす。受け取ったのは約二か月前。他の大陸にいた彼女は超特急でハーニンド大陸に戻ってきたが、移動だけでそれだけ時間がかかってしまった。

「よーし、待っててね! エフィ、ジェード!」

 そう笑顔を浮かべたレナートだが、彼女がいる場所の捜索や魔族との戦争の影響で届くのに時間がかかり、その手紙が差し出されてからすでに一年ほど経過していることをまだ知らない。






 時は遡り、ノエルが騎士団に救出された次の日、西区の冒険者ギルドに二人の男性が訪れた。

「確か奥の掲示板だったのよな?」

「ああ」

 騎士の二人は冒険者を避けながら建物の奥へと進む。そして、目的の掲示板に辿り着いた。その掲示板は緊急用のものであり、冒険者ギルドの許可がなければ貼り紙を貼ることができない。

「誰かに見られる前に剥がすぞ」

 そう言って騎士の一人は次々と昨日に貼った貼り紙を剥がしていく。その貼り紙はノエルが行方不明になったため、目撃情報を求める、というもの。ノエルは保護されたため、騎士たちは手分けして貼り紙を剥がす作業をしていた。冒険者ギルド以外にも様々なところに貼っていたため、次の現場に急がなければならない。

「あ、やべ」

 そのためか騎士の一人が貼り紙を剥がす時に僅かに重なっていた他の貼り紙を剥がしてしまった。急いでそれを手に取り、貼り直そうとしたがそのチラシに冒険者ギルドの認可印がないことに気づく。

(誰かの悪戯か?)

 どちらにしてもこの掲示板は許可がなければ使用してはならない場所。騎士の男は許可されていない貼り紙を放っておけず、くしゃくしゃにして自分たちが剥がしたものと一緒に袋へ入れてしまった。

「これでよし。次に行くぞ」

「ああ」

 それからほどなくして作業を終えた騎士たちは冒険者ギルドを後にする。まさかそれが自分の親を探している齢六歳の最年少冒険者の貼り紙だと知らずに。

これにて第三章、完結です。

閑話の文字数が多いため、今日の更新はこれにて終了。

明日から第四章が始まりますのでお楽しみに!

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