第248話 再始動
「それは……私ですら厳しいと思うわ。だって、相手は不死だもの」
ノンの言葉にアレッサは顔をしかめます。魔族は不死の存在。そんな相手に何かを守りながら戦うのは難しいでしょう。ましてや、戦場が王都になれば流れ弾一つだけでどれだけの命が犠牲になるのか想像すらしたくありません。
「それでもです。一方的に殴り続けていれば死ぬかもしれません。死ななくても気絶さえさせられたらその間に拘束できます。もしかしたら誰にも知られていない弱点があるかも」
「……確かに」
しかし、ノンは引きませんでした。魔族は六年前まで隠れるように生きていた種族だと何かの文献で読んだことがあったのです。そのせいでその生態はあまり知られていません。彼の言うとおり、情報を探せば何か魔族を倒す手段がわかる可能性は十分にあります。そのため、アレッサも調べる価値はある、と判断したようでした。
「……やることは山積みね」
力を付ける。アレッサの師匠を探す。魔族の弱点を調べる。ノンの家族を探すという単純な旅は今回の騒動だけでやることがたくさん増えてしまいました。
「でも、僕たちなら大丈夫ですよ。だって、魔族を追い払ったんですから」
「……そうね。ノンが一緒なら不思議とできそうな気がするわ」
そう言ってアレッサは傍に置いていたとんがり帽子を頭に乗せます。そして、ノンに手を差し伸べました。
「こうなったら最後まで付き合うわ。あなたの家族探し。あとついでに魔族を倒す方法を探してこの戦争を終わらせちゃいましょう。家族を探せても安心して暮らせないものね」
「ふふっ、まるで物語みたいですね。家族を探すついでに世界を救っちゃうなんて」
「ノンならできそうな気がするわ。小さな英雄さん?」
「ええ? 僕はそんな大それたことやってませんよ」
「……それはどうかしらね」
差し伸べられた手をノンは握り返して笑いますがアレッサはどこか呆れた様子で彼を見ていました。おそらく、彼が助けた幼い女の子の正体に彼女は気づいているのでしょう。
「やることは山積みだけど……ノンはまず、傷を治すこと! それまでは稽古はなしね」
「はーい」
ビシッ、という音が聞こえてきそうな勢いで人差し指を立てるアレッサに彼はくすくすと笑いながら頷きます。いつもの彼女に戻ったのが嬉しかったのでしょう。
「あ、その前に一つだけ提案があるの」
「提案ですか?」
「ええ、今回の魔族との戦いではっきりしたわ……私たちに必要なもの」
そう言いながらアレッサは立ち上がり、遠くへと視線を向けます。ノンもふらふらと腰を上げて彼女と同じ方向を見つめました。
「ノン、仲間を探しましょう」
そして、彼女はかつて旅に出る直前にオウサマが口にした言葉をノンへ告げたのでした。
「仲間、ですか?」
「ええ、私たちは魔族にダメージを与えられる数少ない冒険者よ。でも、魔族を相手にするのなら私たちだけじゃ足りない。同じ志を持つ、味方が必要だわ」
「……」
魔族との戦いでは基本的にノンはサポートに回り、アレッサ一人で攻撃を担当していました。しかし、ノンだけでは手が足りず、最終的にアレッサも手を止めて彼を庇い、その隙を突いて何とか魔族の動きを止められました。
しかし、本気を出した魔族の攻撃はあんなものではないでしょう。ノン一人では捌ききれないのは間違いありません。
「そうですね……探しましょう」
だから、ノンも素直に頷きました。条件はとても厳しいでしょう。しかし、彼はすでに仲間の重要さを身に染みて理解しているつもりです。だって、最初にアレッサが仲間になってくれたおかげでこうやって王都を救うことができたのですから。
「でも、どうやって探しますか?」
「うーん、とりあえず、近場の街に行って冒険者ギルドに行きましょうか。そこで仲間を募集してる人がいるかもしれないし」
「……あ」
『冒険者ギルド』という言葉でノンはアレッサに伝えなければならないことを思い出しました。
「あの師匠……師匠ってお姉さんいますよね?」
「……いる、けど?」
ノンの言葉に彼女はすでに『嫌な予感がしています』と言わんばかりに面倒臭そうな表情を浮かべます。
「ブラウン侯爵家現当主、アリス・ブラウンさんから伝言です。『ブラウン侯爵家の当主を譲る準備はできてるからいつでも帰ってきてね』って」
「……え、頼んでないんだけど」
「あはは! やっぱり!」
「ちょ、なんで笑うのよ! だって、当主とか絶対に面倒じゃない! それになんでアリスが当主になってるの!?」
あまりに予想通りな反応を見せたアレッサにゲラゲラとお腹を抱えて笑うノン。笑う度に体に痛みが走るのでしょう、『痛い痛い』と言いながらも決して笑うのを止めようとしません。そんな彼にアレッサは声を荒げ、詳しい話を聞き出そうとします。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ彼らはすでに『王都でノンの家族を探せなかった』という事実は頭から消え去り、前を見て歩き出そうとしていました。
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