第247話 渇望
「僕がここにいるのは師匠のおかげなんです。旅に出て初めて出会った人があなただったからここにいます」
ノンの表情に体を硬直させたアレッサにノンは言葉を重ねました。しかし、それでも自責を払拭させるには足りなかったのか、彼女は奥歯を噛み締めます。
「でも……ノンなら一人でも王都に着いてたわ」
確かにノンはまだ経験が少なく、少しだけ危ういところはありました。ですが、多少の困難なら彼の柔軟な思考や魔力循環、白い包帯を駆使して乗り越えられるでしょう。事実、アレッサが駆けつけるまで彼は人攫いや魔族を相手に善戦していました。アレッサはあくまで魔族を元居た場所へ転移させる手伝いをしただけです。彼なら彼女がいなければ他の作戦を考えてどうにかしていたでしょう。
「そうですね。王都に来るだけなら僕一人でもなんとかなったかもしれません。ですが、あの時、師匠と会っていなければレニックスの街は今頃、オークキングの軍勢に飲み込まれてたと思います」
「ぁ……」
「マーシャさんを王都に連れて来られたのも、ノエちゃんを……王都を魔族から守れたのも、何もかも師匠がいたからです。師匠がいなければ僕はここまで早く王都に辿り着けませんでしたから」
オークキングの軍勢がレニックスの街を飲み込む前に巨石を使った作戦を実行できたこと。
マーシャが夢を諦めて依頼を撤回する前にあの親切なギルド職員に王都へ行くために護衛任務を受けたいと話したこと。
ノエルが人攫いに遭ったところにノンが偶然、鉢合わせたこと。
アレッサがノンの旅についていくと決断してくれたからこそ――あの時、ノンとアレッサが出会ったからこそ間に合ったのです。
特にノエルの件は間に合っていなければ今頃、王都は一人の魔族にとって滅ぼされていたでしょう。
「そう、僕たちは……守ったんです。誰も知らないけど……誰にも気づかれなかったけど、確かに僕たちは王都を救ったんです」
きっと、王都に魔族が現れたことを知っているのはノン、アレッサ、ノエルの三人だけ。王都に住む五百万人は何も知らず、ただマジカルヤンキーが暴れたという噂しか耳にしないでしょう。
「もし、王都に僕の家族がいたら何もできないまま、魔族に殺されてたかもしれません」
「……」
「だから、師匠、ありがとうございます。あの日、僕と出会ってくれて」
「……はぁ。ほんとにノンってずるいわ。そんなこと言われたら自分を責められないじゃない」
ノンの真っ直ぐな言葉にアレッサは苦笑を浮かべました。そして、すぐに真剣な顔に戻ります。
「じゃあ、申し訳ないけどしばらくは王都に戻れないと思う。それでもいいのね?」
「はい……と、いうよりも戻りたくないです」
「え? それはどうして?」
「あの魔族は多分、僕たちを狙ってきます」
魔族の男が転移する直前、獲物を見つけたという顔をしていました。きっと、彼はノンとアレッサを執拗に追ってくるでしょう。
「もし、王都に入った後、あの魔族に場所がばれたら王都が戦場になります。それに……今の僕たちじゃあの魔族を倒せませんし、あいつは本気を出してませんでした」
ノンの言うとおり、あの魔族は本気を出していないように見えました。もし、本気でノンたちを殺そうとするならノンの魔法の無効化が間に合わない速度で魔法を連発すればよかったのです。地下水道の崩落を避けたかったのか、それともノンたち相手に本気を出すまでもないと判断したのか。その理由はわかりませんがあの慢心がなければ今頃、ノンたちは魔族に殺されていたでしょう。
「だから、もっと強くなりたいです。あの魔族相手でも勝てるように……少なくとも王都が戦場になっても大丈夫だと思えるようになるまで」
だからこそ、彼は力を求めたのです。家族に出会った後、魔族から家族やその周りにいる人たちを守れるように。
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