第246話 非難
プカプカと自分が泡になってしまったような浮遊感が全身を包み、ノンは思わず口元を緩めてしまいます。しかし、それと同時に自分が置かれている状況がわからず、首を傾げようとして体がピシリと軋みました。
「ん……」
「あ、起きた?」
その微かな痛みに身じろぎした後、重い瞼を開けます。そして、視界いっぱいに安心しいたような微笑みを浮かべたアレッサが映りました。トレードマークのとんがり帽子を外しており、綺麗な銀髪がさらさらと風で揺れています。
「師、匠?」
「おはよう。体の調子はどう?」
「からだの……いつっ」
アレッサに問いかけられ、ノンは体を動かそうとしますがその直後に針を刺したような鋭い痛みが走ります。特に右腕にジクジクとした痛みが続いており、上手く動かせません。
「あ、無理はしないで。手当はしたけど傷が深いからすぐに傷口が開いちゃうから」
「傷……あ、そっか」
思い出すのは魔族との戦い。ノエルを庇う時に咄嗟に右腕でヒュドラの毒刃を受け止めました。あの時は包帯でしっかりと止血していましたし、激しい戦闘だった影響でアドレナリンが分泌していたおかげで痛みを感じることなく戦えたのでしょう。
しかし、戦いが終わり、通常時に戻ってしまったせいで右腕の傷が痛みだしたのです。傷が塞がるまで右腕はまともに使えないでしょう。
「それにあなた、すごく無理したでしょ。一日中、寝てたわ」
「え、そんなにですか」
「そう。その間、ずっと背負って移動したんだから」
『今は休憩中』とアレッサが顔を上げるとその後ろに澄みきった青空が見えます。どうやら、少しでも楽な態勢にしようとしたのかノンに膝枕をしているようでした。
「あれから、どうなりました?」
彼女の言うとおり、無理をしたせいで体がだるく、動くのもままならなかったため、そのまま質問しました。現在地点はどこかわかりませんが少なくとも野外にいることは間違いなさそうです。そんなノンの問いかけにアレッサは申し訳なさそうな表情を浮かべました。
「ごめん。王都から離れたの。ノエルっていう子を誘拐したって勘違いされちゃって」
「あー……でも、ノエちゃんは無事に保護されたってことですよね?」
「ええ、騎士団の人たちもあの子を優先してたわ」
その言葉に彼は『よかった』と安堵のため息を吐きます。魔族を王都に招きいれた闇ギルドの刺客が他にいる可能性があったため、ノエルの安全が保障されたからでしょう。
「……ノン、ごめん」
そんなノンを見つめていたアレッサは改めて謝罪の言葉を口にします。彼女の顔は暗く、まるで自分を責めているようでした。
「師匠?」
「私のせいで王都で家を探せなかった……本当にごめんなさい」
アレッサは王都でマジカルヤンキーとして悪い意味で有名です。しかし、彼女が暴れていたのは七年も前のこと。その悪名も多少は薄れていると予想していましたが実際にはまだ深く根付いており、王都に着いてから彼女はずっと憲兵に追いかけ回されていました。
更にノエルと一緒にいるところを騎士団に見られたため、誘拐犯と勘違いされてしまい、王都に滞在するのが難しくなりました。ノンの怪我のこともあったため、彼女は仕方なく、王都を一時的に離れることにしたのです。
「私が一緒にいたせいで一番可能性が高かった王都の探索が後回しになっちゃった。これならいっそ私とはここで別れて――」
「――それ以上言ったら師匠でも許しませんよ」
アレッサの言葉をノンは遮りました。その拍子に体を起こしたため、体に痛みが走ったのでしょう。彼は顔をしかめますがそれでも彼女から視線を外しません。その真剣な眼差しに自分を非難していたアレッサは思わず息を呑みました。
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